婚姻費用分担請求のやり方・算定表の見方と弁護士なしで進めるリスク
別居中の生活費に不安を抱えている方は少なくありません。「相手に請求できるのはわかっているけれど、金額の目安も手続きも複雑でわからない」という声もよく聞かれます。
婚姻費用は、婚姻生活を維持するために必要な費用です。別居中、収入の少ない一方配偶者は、他方配偶者に婚姻費用の分担を請求できます。
本記事では、婚姻費用の意味・相場・計算方法から調停・審判の進め方、相手が払わない場合の対処法まで、順を追って解説します。弁護士なしで自分で進める際のリスクも取り上げているので、ぜひ参考にしてください。
婚姻費用とは|婚姻生活の維持に必要な費用
婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を営むうえで必要な一切の費用です。具体的には、衣食住に必要な費用・医療費・交際費・子の養育費・教育費などです。
夫婦は、婚姻生活から生じる費用を互いに分担する義務を負っています。また、親は自分の生活を保持するのと同程度の生活を、子にも保持させる義務があります。別居中も、法律上の婚姻関係が続いている限り、婚姻費用を分担しなければなりません。
婚姻費用分担請求とは?
婚姻費用分担請求とは、夫婦の一方が他方に対して、婚姻生活の維持に必要な費用を求める手続きです。通常は、収入の少ない側が多い側に請求します。
別居中の生活費の請求
婚姻費用分担請求とは、夫婦の一方が他方に対して、婚姻生活の維持に必要な費用の分担を求める手続きです。別居中、収入の少ない一方配偶者は収入が多い他方配偶者に対し、婚姻費用を請求できます。
同居中は家計を一にしているため、婚姻費用の分担が問題になることは基本的にないでしょう。婚姻費用の分担が問題になるのは、通常、夫婦が別居したときです。別居後は夫婦の財布が別々になり、収入差や子との同居状況によっては双方の家計に差が生じるためです。
もっとも、婚姻費用分担請求は、別居を要件とはしていません。相手方に収入があるにも関わらず、生活費をもらえない場合は、同居中でも婚姻費用を請求できます。
婚姻費用の分担を請求できる根拠
法律上、婚姻費用は、夫婦が互いに分担すべきものと定められています。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
(婚姻費用の分担)
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
引用元:民法 | e-Gov 法令検索
なお、分担義務の程度は、生活扶助義務ではなく、生活保持義務とされています。生活保持義務とは、自分の生活レベルと同程度・同水準の生活を配偶者や子などにも保持させる義務です。
婚姻費用分担請求を拒否できるケース
離婚を前提に別居した場合でも、夫婦間の婚姻費用の分担義務は原則として免れません。
ただし、別居に至った原因がもっぱら請求する側にある場合には、婚姻費用の分担義務は減免されます。
自ら円満な婚姻関係を壊していながら、相手に婚姻生活を維持するための費用を請求するのは、信義に反するからです。請求者側のDV・不貞などの有責行為が原因で別居に至ったことが証拠上明らかな場合は、請求を拒否できる可能性が高まります。
なお、支払い拒否をできるのは、有責配偶者の生活費に相当する額のみです。子どもの生活費に相当する額の分担は拒めません。
婚姻費用の相場はいくら?

令和6年の司法統計によると、家庭裁判所で婚姻費用の取り決めがなされた事案では、月額10万円超~15万円以下が全体の約2割で最多です。6万円超から15万円以下の範囲に全体の約5割が集中しており、実質的な相場の中心といえます。
ただし、婚姻費用の金額は、夫婦双方の年収・子の人数・年齢によって大きく異なります。自動計算器や算定表・標準算定方式を用いて、個別の事情に応じた目安額を確認しましょう。
婚姻費用自動計算器で簡単シミュレーション!
「ベンナビ離婚」が提供する婚姻費用の自動計算機は、以下の項目を入力するだけで、婚姻費用の目安額を確認できます。
- 夫婦双方の年収
- 収入の種類(給与所得or事業所得)
- 受け取る側が同居する子の数・年齢
- 支払う側が同居する子の数・年齢
算出結果はあくまで目安ですが、裁判所が公表する算定表を自分で読み解く手間なく、おおよその金額感をつかめる点が利点です。
算定表を使った婚姻費用の計算方法
婚姻費用の金額は、裁判所が公表する婚姻費用算定表をもとに算出するのが一般的です。算定表は、夫婦双方の年収と子の人数・年齢を照合するだけで月額の目安を読み取れる早見表で、調停・審判でも広く活用されています。
ただし、算定表はあくまで標準的なケースを前提とした目安であり、個別事情によって増減する場合があります。
婚姻費用算定表の見方
婚姻費用算定表は、子の人数・年齢ごとに10種類の表に分かれています。まずは、裁判所の公式Webサイトに掲載されている表10~19の中から、自分の家族構成に合った表を選びましょう。
引用元:裁判所|養育費・婚姻費用算定表
たとえば、16歳と12歳の子がいる場合は、表14を参照します。表の縦軸が義務者(支払う側)の年収、横軸が権利者(受け取る側)の年収です。両者が交差するマスの金額が、婚姻費用の月額の目安です。
年収は、以下の書類を参照してください。
- 給与所得者の場合:源泉徴収票の支払金額(控除前の金額)
- 自営業者の場合:確定申告書の課税される所得金額
引用元:裁判所|養育費・婚姻費用算定表
※ただし、マーカーおよび金額の枠線・省略線はアシロ編集部にて加工
夫婦双方が給与所得者で、義務者の年収が550万円、権利者の年収が100万円の場合、婚姻費用の目安は、月額12万円〜14万円です。
標準算定方式による婚姻費用の計算手順
子の数・年収が算定表の範囲を超える場合や1円単位で計算した場合などには、算定表の元となる標準算定方式を用いた計算も可能です。標準算定方式を用いた計算は、以下の3ステップで進めます。
Step①基礎収入を算出する
まず、以下の計算式を用いて、義務者(支払う側)・権利者(受け取る側)の基礎収入を算出します。
| 義務者の基礎収入(X)= 総収入(年収)× 基礎収入割合 |
| 権利者の基礎収入(Y)= 総収入(年収)× 基礎収入割合 |
基礎収入割合は、下表のとおり、給与所得者・自営業者の別と年収水準によって異なります。

Step②生活費指数をもとに権利者側の生活費を算出する
次に、Step①で求めた基礎収入と以下の計算式を用いて、権利者と同居の子の生活費を算出します。
| 権利者と同居の子の生活費(Z)= ( X+Y )× 権利者側の指数合計 ÷ 全体の指数合計 |
生活費指数は以下のとおりです。
| 区分 | 生活費指数 |
|---|---|
| 権利者・義務者 | 100 |
| 14歳以下の子 | 62 |
| 15歳以上の子 | 85 |
たとえば、夫婦間に16歳と12歳の子がおり、いずれの子も権利者(受け取る側)と同居している場合の指数は、以下のとおりです。
| ▼権利者側の指数合計 = 100 + 85 + 62 = 247 ▼全体の指数合計 = 100 + 100 +85 + 62 = 347 |
Step③義務者の負担額を算出する
Step②で求めた権利者と同居の子の生活費(Z)から、Step①で求めた権利者の基礎収入(Y)を差し引きます。
| 義務者が負担すべき婚姻費用年額(M)= Z - Y |
上記で求めた年額(M)を12で割った金額が、婚姻費用の月額の目安です。
婚姻費用算定表を使う際の注意点
婚姻費用算定表で算出できる婚姻費用の額は、あくまで標準的なケースを前提とした目安です。家庭の個別事情によっては、増額・減額などの調整が必要な場合があります。
増額・減額される可能性があるケースは、以下のとおりです。
| 増額される可能性があるケース | 減額される可能性があるケース |
|---|---|
| ・子が私立学校や大学に進学している ・子が学習塾や習い事に通っている ・権利者や子に持病・障害があり、高額な治療費が継続的に発生している |
・義務者が権利者の居住する家の家賃または住宅ローンを負担している ・義務者が権利者の居住している家の公共料金などを支払っている ・子が給付型の奨学金を受けている |
婚姻費用分担請求の進め方
婚姻費用分担請求は、まず配偶者との話し合いからスタートするのが一般的です。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てます。調停でも決着がつかなければ、審判で裁判官が金額を決定します。
1.配偶者と話し合う
まずは夫婦間の協議で、婚姻費用の金額・支払い方法・支払い期日について合意を目指します。別居前に取り決めておくのが理想ですが、取り決めができずとも婚姻費用は審判で確定させることが容易です。難しい場合は別居を優先してください。
合意が得られない場合は、別居後なるべく早く内容証明郵便で請求の意思を示しましょう。婚姻費用は請求した時点から支払い義務が生じるとされており、請求が遅れた分は遡って受け取れないケースが多いためです。
合意が得られたら、必ず書面に残してください。相手が支払いを怠るおそれがある場合は、強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)での作成をおすすめします。執行証書を作成しておけば、滞納が生じた際も、裁判手続を経ずにスムーズに強制執行へ移れます。
2.婚姻費用分担請求調停を申し立てる
話し合いがまとまらない場合は、婚姻費用分請求調停を申し立てます。申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所です。
申立てに必要なものは、以下のとおりです。
- 申立書(各地の家庭裁判所のHPからダウンロード可)
- 夫婦の戸籍謄本
- 収入印紙1,200円
- 郵便切手(裁判所によって異なる)
- 収入を証明する資料(源泉徴収票・確定申告書の控え・所得証明書など)
調停では、調停委員が双方の収入・資産・支出を聴取し、算定表を参照しながら合意額を調整します。調停が成立すると、合意内容を反映した調停調書が作成されます。調停調書は確定判決と同一の効力があるため、支払いが滞ったときは直ちに強制執行が可能です。
【参考元】婚姻費用の分担請求調停 | 裁判所
3.審判による婚姻費用の決定を委ねる
調停が不成立により終了した場合は、自動的に婚姻費用分担請求審判に移行します。婚姻費用分担請求事件は審判事項であるため、最初から審判の申立ても可能です。ただし、家庭裁判所の運用では、調停を経ずに審判を申し立てると、調停に付されるのが一般的です。まずは調停を申し立てるようにしましょう。
審判では、裁判官が当事者双方の主張や提出された証拠など一切の事情を考慮し、婚姻費用の額を決定します。審問期日は、裁判官が審判できると判断するまで続きますが、多くの場合1〜2回程度で終わります。
裁判官が下した判断(審判)に不服がある場合は、審判の告知を受けた日から2週間以内であれば、即時抗告が可能です。審判書の受領から2週間以内に即時抗告がなければ、審判が確定します。確定した審判も、確定判決と同一の効力を有します。
婚姻費用分担請求が認められないケース
婚姻費用の分担義務は、離婚を前提に別居をしているときでも、原則として発生します。ただし、別居に至った原因が請求する側にある場合などには、婚姻費用分担請求が認められない可能性があります。
別居の原因が請求する側にある
別居に至った原因がもっぱら請求する側にある場合は、権利の濫用として、婚姻費用分担請求が認められない可能性があります。自分で婚姻関係の破綻を招いていながら、相手に婚姻生活を維持するための費用を請求するのは、信義に反するからです。
たとえば子のいない夫婦が、妻の不貞行為が原因で別居に至った場合、家庭裁判所は妻からの婚姻費用分担請求は認めない可能性があります。夫婦に子がいる場合は、婚姻費用のうち、子の養育費相当分のみを認めるのが一般的です。
ただし、有責性の有無・程度を適正に判断するには、証拠調べなどが必要であり、本来訴訟で解決すべき問題という考え方もあります。そのため、家庭裁判所が請求を退けるのは、請求者側に一方的な有責性があると直ちに判断できるケースに限られるでしょう。
子どもが相手方と同居している
子が相手方と同居している場合、双方の収入によっては、婚姻費用分担請求が認められない可能性があります。
婚姻費用算定表は、権利者が子を監護していることを前提に作成されています。子が義務者と同居している場合は、標準算定方式で別途計算が必要です。
たとえば、夫婦双方が給与所得者で、夫の年収が460万円・妻の年収が360万円とします。14歳未満の子二人が夫と同居している状況で、妻が婚姻費用を請求すると、計算結果はマイナスとなります。つまり、逆に妻が夫に婚姻費用を支払わなければなりません。
| ▼Step①:基礎収入を算出 ・夫の基礎収入(X)= 460万円 × 42% = 193.2万円 ・妻の基礎収入(Y)= 360万円 × 42% = 151.2万円 ▼Step②:権利者側の生活費を算出 子二人は義務者(夫)と同居しているため、権利者(妻)側の指数合計は妻の分のみ。 ・権利者側の指数合計 = 100(妻のみ) ・全体の指数合計 = 100 + 100 + 62 + 62 = 324 ・Z =(193.2万円 + 151.2万円)× 100 ÷ 324 = 約106.3万円 Step③:義務者の負担額を算出 ・M = Z - Y = 106.3 - 151.2 = ▲44.9万円 |
別居を解消または離婚が成立した
別居を解消した場合や離婚が成立した場合は、婚姻費用の請求は原則できなくなります。同居を再開した場合、夫婦の家計は再び一体となるため、婚姻費用を個別に請求する必要はなくなるでしょう。
離婚が成立すると、夫婦関係そのものが解消されるため、以降の婚姻費用は請求できません。婚姻費用を分担する義務は、婚姻から生じるものだからです。
もっとも、同居再開後も相手が働いて収入を得ているのに生活費をもらえない場合は、婚姻費用を請求できます。
婚姻費用の分担を請求するメリット
婚姻費用分担請求のメリットは、別居中の生活費を確保できる点です。相手が経済的負担から、早期に離婚に応じる可能性もあります。離婚条件の交渉で譲歩を引き出せる可能性もあるでしょう。
別居中の生活費を確保できる
婚姻費用の分担請求が認められれば、別居中の生活費を確保できます。
収入の少ない側は、別居によって家賃・食費・光熱費が一から必要となり、生活費が不足しやすくなります。子と同居している場合は、学費や養育費も一人で抱えることになり、負担はさらに大きくなるでしょう。
婚姻費用の支払いを受ければ、生活水準を維持しやすくなります。
早期の離婚成立が期待できる
婚姻費用の請求によって、相手が早期離婚に応じやすくなる可能性があります。婚姻費用の分担義務は婚姻関係が続く限り存続するため、義務者は離婚しない限り支払いから逃れられません。
別居期間が長引くほど支払い総額も膨らむため、早期に離婚を成立させようとする心理がはたらく場合があります。離婚を拒否していた相手が、婚姻費用の請求をきっかけに離婚に応じるケースも少なくありません。
相手から条件面で譲歩を引き出せる可能性がある
婚姻費用の請求によって、離婚時の条件交渉で相手の譲歩を引き出せる場合があります。
養育費は子の生活費のみを対象とするため、配偶者の生活費も含む婚姻費用より金額が下がります。離婚すれば義務者の経済的負担が軽くなるため、養育費の条件を受け入れやすくなるでしょう。
財産分与についても影響が生じるケースがあります。未払いの婚姻費用がある場合、離婚時にその精算が必要です。現預金が少なければ、未払い分の精算に代えて財産分与の割合を増やしたり、希望する財産を渡したりといった形で調整するケースもあります。
婚姻費用の分担を請求するデメリット
婚姻費用分担請求により、配偶者との関係が悪化するケースもあります。手続きが長期化した場合は、精神的・時間的な負担も生じるでしょう。弁護士に依頼する場合は、弁護士費用もかかります。
配偶者との関係が悪化する可能性がある
婚姻費用の請求により、配偶者との関係が悪化する可能性があります。別居に至るほど夫婦関係が悪化している状況では、相手の一挙手一投足に感情的な反発を覚える傾向があるためです。
たとえば、配偶者が自発的に婚姻費用を支払おうと考えていた矢先に調停を申し立てると、気分を害することもあるでしょう。話し合いで解決できたはずの問題がこじれるケースもあります。
ただし、請求するかどうかで離婚協議のしやすさが劇的に変わるケースは多くありません。条件面での対立が深ければ、相手の気分にかかわらず離婚成立まで時間がかかります。
受け取れるはずの婚姻費用をもらい損ねるリスクを考えると、請求を控えるのが得策とはいえない場合がほとんどです。
弁護士に依頼する場合は費用が発生する
弁護士に婚姻費用分担請求を依頼する場合は、弁護士費用が発生します。費用は事務所によって異なりますが、着手金20万〜50万円程度、報酬金は獲得した婚姻費用の10〜20%程度が目安です。
別居や離婚前後にまとまった金額の弁護士費用を支払うことに、負担を感じる方も少なくないでしょう。ただし、自己対応では請求のタイミングや金額の判断を誤り、受け取れるはずの婚姻費用をもらい損ねるリスクがあります。
弁護士に依頼すれば、適正額を早期に確保できる可能性が高まります。分割払いやクレジットカード払いに対応している事務所もあるため、費用面の不安は依頼前に相談してみましょう。
婚姻費用分担請求を成功させるポイント
本章では、婚姻費用分担請求を成功させるための4つのポイントを紹介します。
弁護士にあらかじめ相談する
別居を検討している段階で、弁護士に相談しましょう。弁護士に相談すれば、適正な婚姻費用の額や請求のタイミングについて、具体的なアドバイスを受けられます。
相手との交渉に不安がある場合も、事前に相談しておけば、スムーズに弁護士を介した交渉に切り替えられます。調停・審判による解決が望ましい場合も、申立書の作成から裁判所とのやり取りまで一任できるため、安心です。
早めに内容証明郵便で請求する
別居後すぐに、婚姻費用の支払いを求める内容証明郵便を送付しましょう。婚姻費用は請求した時点から支払い義務が生じるため、別居と同時に請求できるのが理想です。請求が遅れると、それまでの間の生活費を受け取れないリスクがあります。
内容証明郵便とは、日本郵便株式会社が差出人・宛先・内容・差出日時を証明するサービスです。内容証明郵便で請求の意思を示しておけば、交渉が長引いた場合でも、婚姻費用の支払いの始期を早められる可能性があります。
別居前に相手から同意を得られない場合は、別居後すぐに送付できるよう、事前に書面を準備しておきましょう。
相手の収入・資産を正確に把握する
別居開始前に、相手の収入資料を確保しましょう。婚姻費用の算定は相手の収入が基準となるため、資料がなければ適正額の主張が難しくなります。
別居後は相手が資料の開示を拒むケースがあります。源泉徴収票・確定申告書・給与明細などは、同居中に写しを保管しておくと安心です。
合意書を公正証書で作成する
婚姻費用の支払いについて双方が合意に至った場合は、強制執行認諾文言付き公正証書を作成するのがおすすめです。強制執行認諾文言付き公正証書があれば、未払いが生じた際に、裁判手続を経ずに強制執行に移れるためです。
口頭合意や私的な書面では、支払いが止まっても即座に対応できません。相手が支払いを怠る可能性がある場合は、公正証書の作成を積極的に検討しましょう。
いつからいつまでもらえる?婚姻費用の支払い期間
婚姻費用の支払いの始期は、実務上、請求時とされています。請求時以前に遡って分担を認めると、義務者の負担が多額に及び公平を欠くおそれがあるためです。
請求時とは、婚姻費用分担請求の意思を明確に示した時です。具体的には、以下の時点が想定されます。
- 内容証明郵便などで婚姻費用分担請求の意思を示した時
- 婚姻費用分担調停または審判の申立時
婚姻費用の支払いの終期は、以下のいずれかの時点です。
- 離婚が成立した時
- 同居を再開した時
- 別居解消後も家庭内別居となる場合は、生計を一にした時
月の途中で離婚が成立した場合、当該月の婚姻費用は離婚成立日までの日数で日割り計算をおこないます。
婚姻費用を払わない相手への対処法
相手が婚姻費用を払わない場合、合意前であれば、内容証明郵便の送付と調停申立てが有効です。合意した内容どおりに支払われない場合は、相手に催促したうえで、履行勧告・履行命令・強制執行などによる解決を図ります。
合意前|内容証明を活用した請求意思の記録
婚姻費用の支払いについて相手と合意に至っていない段階なら、まずは配達証明付き内容証明郵便で請求の意思表示をしましょう。配達証明付き内容証明郵便で意思表示をすれば、文書の内容・差出人・宛名・配達日などを記録として残せます。
相手との協議が長引いても、請求の意思を示した日を明確にしておけば、請求時まで遡って支払いを受けられる可能性があります。
相手から応答がない場合や、話し合いを拒否する場合は、速やかに婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。調停では、家庭裁判所の調停委員が間に入って話し合いを進めます。相手とのやり取りが苦痛な方も、極力顔を合わせることなく手続きを進められます。
合意後|請求・履行勧告・履行命令・強制執行
調停・審判で取り決めた婚姻費用が支払われない場合も、まずは相手に直接請求を試みるのが一般的です。相手から応答がない場合などには、履行勧告・履行命令を検討できます。
| 履行勧告 | 履行命令 | |
|---|---|---|
| 概要 | 家庭裁判所が、義務者に対し、婚姻費用の支払いを促す手続き | 家庭裁判所が、義務者に対し、相当な期間を定めて婚姻費用の支払いを命じる手続き |
| 申立先 | 調停・審判をした家庭裁判所 | 調停・審判をした家庭裁判所 |
| 申出方法 | 書面・口頭・電話 | 書面・口頭 |
| 費用 | 無料 | 収入印紙500円+郵便切手代 |
| 違反時のペナルティ | なし | あり(過料10万円以下) |
調停・審判・強制執行認諾文言付き公正証書がある場合は、強制執行も検討できます。強制執行とは、裁判所が債務名義にもとづいて債権の内容を強制的に実現する手続きです。
未払いの婚姻費用について、強制執行を申し立てる際は、相手方の給与や預貯金を差し押さえるのが一般的です。婚姻費用は特例により、給与の2分の1まで差し押さえが認められています。また、将来の給与も継続して差し押さえが可能です。
強制執行の申し立て手順
未払い婚姻費用の分担請求権に基づく強制執行の手順は、以下のとおりです。
Step①相手の財産・勤務先を特定する
差し押さえる財産・債権を特定しましょう。債権とは、特定の人に対し、金銭の支払いや商品の引き渡しなどの一定の行為を求める権利です。
たとえば相手が給与収入を得ている場合、相手は勤務先に対して、給与の支払いを求める権利(給与債権)をもっています。相手名義の預貯金がある場合は、相手は金融機関に対して、預金の払い戻しを求める権利(預貯金債権)があります。
婚姻費用の回収では、給与債権や預貯金債権を差し押さえるのが一般的です。相手の勤務先や口座情報が不明な場合は、弁護士への相談や財産開示手続または第三者からの情報取得手続の活用を検討してください。
| 財産開示手続 | 第三者からの情報取得手続 | |
|---|---|---|
| 概要 | 債務者を裁判所に呼び出し財産状況を開示させる手続き | 裁判所が第三者に財産情報の提供を命じる手続き |
| 照会先 | 債務者本人 | 市区町村・年金機構・法務局・金融機関など |
| 取得できる情報 | 債務者が申告した財産状況 | 勤務先・預貯金・不動産・株式や国債などの情報 |
Step②必要書類を準備する
強制執行の申立てに必要な書類を準備しましょう。給与や預貯金などの債権を差し押さえる場合の標準的な必要書類は、以下のとおりです。
- 債権差押命令申立書(申立書・当事者目録・請求債権目録・差押債権目録)
- 執行力のある債務名義の正本
- 送達証明書
- 資格証明書(勤務先などの第三債務者が法人の場合)
- 住民票・戸籍謄本・戸籍の附票(当事者の住所・氏名が債務名義上の住所・氏名と異なる場合)
債務名義の種類によって、執行文の付与や確定証明書の取得が必要です。
| 債務名義の種類 | 執行文付与 | 確定証明書 |
|---|---|---|
| 調停調書 | 不要 | 不要 |
| 確定審判 | 不要 | 必要 |
| 強制執行認諾文言付き公正証書 | 必要 | 不要 |
公正証書の場合は原本を保管する公証役場で、公正証書以外の場合は事件の記録のある裁判所に申請します。
Step③地方裁判所に申立書類を提出する
必要書類が揃ったら、相手方の住所地を管轄する地方裁判所に債権差押命令申立書を提出します。申立書類の提出は、窓口への持参のほか郵送も可能です。
書類に不備がなければ、裁判所が審査のうえ、差押命令を発令します。差押命令は、相手方と第三債務者(勤務先・金融機関など)に順次送達されます。差押命令が債務者に送達された日から1週間が経過すると、勤務先や金融機関に対して直接取り立てが可能です。
弁護士なしで自分で婚姻費用分担を請求する場合のリスク
婚姻費用分担請求は自分でも手続き可能です。ただし、費用を節約できる反面、もらえるはずの婚姻費用を受け取れなくなるリスクもあります。以下で詳しく解説します。
本来受け取れるはずの適正額を見誤る
自己対応では、本来受け取れるはずの適正額を見誤るリスクがあります。婚姻費用算定表は、標準的なケースを前提とした目安を示すものにすぎないためです。
たとえば、持病や障がいで高額な医療費が継続的に発生している場合や、子が私立学校に通っている場合には、加算調整が必要です。自己対応ではこうした個別事情の計算を見落としやすく、本来受け取れるはずの金額を低く合意してしまうリスクがあります。
一度合意した金額を変更するには、事情の変更など一定の要件が必要です。合意後の増額交渉は容易ではありません。
請求の意思を明確にしそびれる
自己対応では、請求の意思を明確にしそびれるリスクがあります。
夫婦間のやり取りでは、内容証明郵便を送るという発想自体が生まれにくいでしょう。口頭での話し合いや電話・メールなどの連絡だけで済ませてしまいがちです。内容証明の作成や調停申立ての手続きに不慣れなことも、請求の意思表示が遅れる一因です。
婚姻費用は、請求した時点から支払い義務が発生するとされています。請求日の記録がなければ、別居開始時点まで遡って受け取るのは困難なケースが多いです。別居から時間が経つほど、もらい損ねる金額が大きくなります。
相手が話し合いに応じない
自己対応では、相手が話し合いに応じないリスクもあります。
弁護士が代理人として交渉する場合は、法的手続への移行を意識するため、相手が誠実に対応するケースも珍しくありません。一方、当事者本人からの連絡は無視されやすく、交渉が長期化するリスクがあります。
協議が整わない場合は、婚姻費用分担請求調停・審判で解決を図ることになるでしょう。調停・審判手続は、書類の作成・証拠の整理など、法律の知識がなければ対応が難しい場面が多いです。
合意書に不備があり未払いに対応できない
当事者間の協議で合意できたとしても、合意書の内容に不備があると、未払いが生じた際に適切に対応できないおそれがあります。
婚姻費用の合意書には、支払い金額・支払い始期・支払い期日など、複数の事項を正確に記載しなければなりません。インターネット上のテンプレートを流用して自作すると、記載すべき条項が抜け落ちたり、表現が曖昧になったりするケースがあります。
支払い金額・支払い期日などが明確に記載されていない合意書では、相手が支払いを滞らせた場合に催促する根拠になりません。合意書の記載内容が曖昧だと、解釈をめぐって新たなトラブルが発生する可能性もあります。
婚姻費用分担請求の弁護士費用の目安
婚姻費用分担請求を弁護士に依頼する場合の費用は、着手金と報酬金で構成されるのが一般的です。着手金は20万円~50万円程度、報酬金は獲得した婚姻費用の10%~20%程度が目安です。
依頼する法律事務所や手続きの内容によって金額は異なるため、相談時に必ず確認してください。
着手金|20万円~50万円程度
婚姻費用分担請求における着手金の相場は、20万円〜50万円程度です。
着手金は弁護士が事件を受任した時点で支払う費用で、結果に関わらず返金されないのが原則です。協議で解決できる場合は低めに、調停・審判に移行する場合は高めに設定される傾向があります。
着手金を無料とし、報酬金のみで費用を設定している事務所もあります。ただし、報酬金の割合が高めに設定されているケースがあるため、総額で比較するのが大切です。
報酬金|獲得した婚姻費用の10~20%程度
婚姻費用分担請求における報酬金の相場は、獲得した婚姻費用の10%~20%程度です。報酬金は事件が解決した際に支払う成功報酬で、獲得した経済的利益をもとに算定されます。
婚姻費用の場合、取り決めた婚姻費用の月額の12ヵ月~24ヵ月分を経済的利益とする事務所が多いです。離婚事件も依頼する場合は、離婚成立時に総受取額をもとに報酬金を計算するケースもあります。
依頼前に計算方法を確認しておくと、想定外の費用負担を防ぎやすくなります。
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婚姻費用分担請求に関するよくある質問
本章では、婚姻費用分担請求についてよく寄せられる質問にQ&A形式で回答します。
Q. 同居中(家庭内別居)でも婚姻費用を請求できる?
同居中でも、婚姻費用を請求できる場合があります。別居の有無は、婚姻費用分担請求の要件ではありません。配偶者が収入を得ているにも関わらず、生活費を入れていない場合は、婚姻費用の分担を求められる余地があります。
ただし、同居中は別居中と比べて婚姻費用の請求が認められにくいケースもあります。請求の可否や金額の見通しについては、弁護士への相談で確認してください。
Q. 婚姻費用を請求したのに離婚を請求しないのはおかしい?
婚姻費用の請求と離婚の請求は、別個の権利であり、同時におこなう必要はありません。離婚を決断していない段階でも、婚姻費用を請求できます。
離婚するかどうかを決める前に、当面の生活費を確保したいという状況は珍しくありません。婚姻関係が継続している以上、収入の多い側は少ない側に婚姻費用を支払う義務を負います。
Q. 婚姻費用をもらい続ける方法は?
婚姻費用を受け取り続けるには、婚姻関係が継続していることが前提となります。離婚が成立した時点で婚姻費用の支払い義務は消滅するため、離婚後は養育費など別の取り決めが必要です。
婚姻費用を安定して受け取るためにも、調停調書や公正証書などの法的効力のある書面で合意内容を残しておくことが大切です。債務名義があれば、相手が支払いを怠った場合も、速やかに強制執行に移れます。
Q. 婚姻費用は遡って請求できる?
相手が任意に支払いに応じない限り、請求時以前の婚姻費用を遡って請求するのは難しいでしょう。家庭裁判所の実務では、婚姻費用の支払い義務は請求した時点から発生すると扱われるのが一般的です。
別居を開始してから長期間請求しなかった場合、請求時以前の婚姻費用は受け取れないケースがほとんどです。別居を開始したら、できる限り早期に請求手続きを進めましょう。
Q. 婚姻費用を払わない方法は?
正当な理由なく婚姻費用の支払いを拒絶することはできません。ただし、婚姻費用の減額が認められる場合はあります。相手の不貞行為が原因で別居に至った場合などには、請求を拒否できる可能性があります。
なお、請求する側が有責配偶者でも、子の養育に必要な費用相当分は支払い義務が残るのが原則です。
まとめ
婚姻費用とは、婚姻生活を維持するために必要な費用です。収入の少ない側は多い側に分担を請求できます。支払い義務は請求した時点から発生するのが原則です。別居を開始したら早期に請求手続きを進めましょう。
婚姻費用の金額は、裁判所が公表する算定表をもとに双方の収入・子の人数・年齢から算出されます。ただし、私立学校の学費や高額な医療費など、個別事情によって増減する余地があります。
相手が話し合いに応じない場合は、婚姻費用分担請求調停・審判で解決を図りましょう。合意が得られた場合は、強制執行認諾文言付き公正証書を作成するのがおすすめです。執行証書があれば、未払い時に裁判手続を経ずに強制執行へ移れます。
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