差し押さえを検討しているのであれば、できるだけ迅速に動き出しましょう。
養育費が未払いになっているということは、支払いの優先順位を低くされているか、相手方の生活が困窮しているか、どちらかの可能性が高いです。
相手が未払いのまま雲隠れをする前に、養育費回収の実績がある弁護士へ相談することで、確実に養育費を回収できるかもしれません。
離婚後に養育費が支払われないことに悩んでいませんか。厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、支払い義務者(元配偶者)から養育費を受給できている母子家庭は3割を満たしておらず、多くの母子家庭世帯が子どもの養育に必要な養育費を受け取れていないことが伺えます。
このような場合には、差し押さえ(強制執行)を行うことで、強制的に養育費を確保できるかもしれません。2020年2月現在の差し押さえでは、相手の給料または預貯金口座が対象になります。給料の差し押さえでは未払い分に加え、今後の養育費も差し押さえておくことが可能です。また、預貯金口座の差し押さえでは、一気にまとまった金銭を確保できるかもしれません。
この度、令和2年4月1日に、養育費を強制的に回収する際の民事執行の手続きを定める民事執行法の改正法が施行されることが決まりました。
この改正によって、養育費を強制的に回収する手続きの効力が強まります。これまで「相手の銀行口座がわからない」「勤め先を知らない」と養育費の差し押さえを諦めていた事例でも、改正後には差し押さえが可能になるケースもあるかもしれません。
この記事では、令和2年4月1日に施行される民事執行法から生じる養育費への影響や、改正前の差し押さえに関する基礎知識、申立てから金銭を受け取るまでの流れについて詳しくご紹介します。従来の強制執行に比較すると、大幅に有利になったとしてきできるので、執行は容易になったといえるでしょう。
差し押さえを検討しているのであれば、できるだけ迅速に動き出しましょう。
養育費が未払いになっているということは、支払いの優先順位を低くされているか、相手方の生活が困窮しているか、どちらかの可能性が高いです。
相手が未払いのまま雲隠れをする前に、養育費回収の実績がある弁護士へ相談することで、確実に養育費を回収できるかもしれません。
離婚時に子どもの養育費の金額や受け取り方法などの取り決めをしていても、支払い義務者の再婚・転職などといった状況の変化によって、養育費の支払いが滞るケースは少なくありません。
そのような場合、支払い義務者である離婚相手と養育費の支払いについて合理的な話し合いができる関係であれば、問題の解決を早期に測ることができるかもしれません。しかし、実際には支払い義務者である離婚相手との関係は疎遠になるため、連絡を取りたくとも連絡先すらわからない、住所がわからないといったケースも多いでしょう。
上記のような養育費に関する問題が発生した際には、離婚相手の財産への強制執行(差し押さえ)を検討することになるかと思います。
では、令和2年4月1日に施行される改正民事執行法によって養育費にはどのような影響があるのでしょうか。
下記に詳しく記載しますが、現行の法律では、養育費の不払いによって給与や預貯金の差し押さえをするためには「勤め先」や「銀行名と支店名」を特定する必要があります。
離婚しており、差し押さえを検討する状況であれば、離婚相手の勤務先や銀行口座の支店名まで把握することは難しいケースが多いでしょう。また、過去には、養育費の差し押さえには「勤め先」や「銀行名と支店名」が必要であることを逆手にとり、養育費の支払い義務を負う離婚相手が、勤務先や口座を変えて支払いを逃れることもあったかもしれません。
なお、このような問題に対処するために平成15年度に「財産開示手続き」が創設されています。財産開示手続きとは、債務者(養育費の場合には支払い義務を負う側)を裁判所が呼び出し、債務者自身の陳述から財産の情報を取得する手続きのことを言います。
しかし、財産開示手続きに関しては、手続きを申し立てできる人が限定されていたことや、債務者が非協力的だった場合の罰則が弱いといった課題がありました。
このような従来の課題を見直すために、改正民事執行法では債務者の財産開示の制度が実行されるように変更されています。
参考:法務省:民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律について
民事執行法の改正によって、現行の財産開示手続きの見直しがなされました。例えば、仮執行宣言付き判決や養育費を取り決めた公正証書(公証人法に基づき、法務大臣によって任命された公証人が作成する公文書のこと)があれば、財産の開示手続きを請求できるように改められました。
参考:法務省:公証制度について
同時に、非協力的な債務者への罰則についても改められています。改正後には、債務者が正当な理由なく財産開示期日に出頭しないなどの場合に、6ヶ月以下の懲役あるいは50万円以下の罰金が科せられることになりました。
民事執行法の改正によって、債務者以外の「第三者からの情報取得手続き」の制度が新設されます。改正後には、裁判所を通して債務者の勤務先や預貯金、不動産などの財産情報を取得することができます。
この制度を用いれば、養育費の支払い義務を負う離婚相手が転職・口座の新設などをして支払いを逃れようとしても、それらの情報を取得することが可能となります。離婚相手が、養育費支払いの負担を減らすために隠していた財産を見つけられる可能性もあります。
この度の改正によって、養育費の不払いへの差し押さえ(強制執行)の実行が以前よりも容易になるかもしれません。
改正民事執行法で設けられた「第三者からの情報取得手続き」では、どのような情報を取得することができるのでしょうか。以下で取得できる情報を解説します。
債務者(養育費支払い義務を負う離婚相手)が利用している金融機関名がわかれば、本店に問い合わせることで支店を明らかにできる可能性があります。
債務者(養育費支払い義務を負う離婚相手)の勤め先が不明でも、市町村や日本年金機構などに問い合わせることで社名や会社の所在地などの情報取得が可能になるかもしれません。
債務者(養育費支払い義務を負う離婚相手)が土地や建物といった不動産を所有している場合、法務局に問い合わせることで、場所などの不動産の情報を特定することが可能になります。不動産についての情報取得手続きは、養育費などの債権者(養育費を受け取る側)でなくとも利用できます。
日本では、土地や建物に関しては不動産登記制度が採用されていますので、登記されている不動産の情報は法務局で管理されています。裁判所が法務局から債務者の不動産に関する情報を取得し、債務者が所有している不動産が明らかになります。債務者に財産となる不動産があった場合には、不動産の差し押さえなどを実行することが可能かもしれません。
口座や株式の保有などに関する情報取得は財産開示手続きを通さずに申し立てることが可能となります。債務者(養育費支払い義務を負う離婚相手)が証券会社を通して株式や投資信託などを保有している場合、証券保管振替機構へ問い合わせることにより、離婚相手が保有している資産の詳細を明らかにすることができます。
明らかになった情報をもとに、債務者が保有する株式などに対して強制執行できる可能性もあります。なお、保険は手続きの対象外となりますので注意しましょう。離婚相手が解約返戻金のついた保険に加入していた場合にも、保険会社からその情報を取得することはできません。
前述した、「第三者からの情報取得手続き」を利用するためには、離婚相手の資産を差し押さえるための債務名義が必要です。
具体的には、以下のような書類が必要となります。
・ 強制執行認諾条項付きの公正証書
・ 調停調書
・ 審判書
・ 認諾調書
・ 和解調書
・ 判決書
これらのような書類がない場合や単なる口約束である場合、あるいは当事者間で交わした合意書のみの場合には、第三者からの情報取得手続きは利用できません。制度を利用したい場合には、家庭裁判所で養育費調停をして権利を確定させることが必要になるでしょう。
差し押さえ(強制執行)で養育費を獲得する場合、以下の条件2つは最低限満たす必要があります。
※民事執行法の改正前の情報になります
『債務名義』とは、一定の権利義務関係の存在を証明する文書です。以下のものが該当します。
確定判決等の代わりに公正証書でも、強制執行を申し立てることができます。ただし、『執行受諾文言』と『執行文』が付与されていなくてはいけません。
執行受諾文言とは、『債務者(金銭などを請求される)は、支払いの約束が守れず強制執行されても文句を言いません』というような文言です。要するに、強制執行されることに対し債務者が同意していることを意味します。
執行文とは、『この公正証書で強制執行できます』というような一文です。もし執行文がない場合は、債務名義の代わりになりません。公証役場へ行き、『執行文付与の申立て』を行い、付与してもらいましょう。(公証役場一覧)
【関連記事】▶調停調書と公正証書の違いとは|法的な効力や費用の比較
強制執行では、給料または預貯金口座の差し押さえをすることができます。ただし、そのためには相手の情報を特定しておかなければいけません。
給料を差し押さえする場合は会社名を、預貯金口座の差し押さえでは、銀行名と支店名(口座番号の特定までは不要)を特定しなければいけません。
預貯金口座は、弁護士に依頼し、弁護士会照会(※)をかけてもらうことで、特定が可能になります。
また、債務名義を取得した段階であれば、銀行に対してある程度幅広い弁護士会照会をかけることが可能です。
債務名義がない段階では、このような幅広い弁護士会照会はできません。そのため、ある程度あたりをつけて照会をしていくことになります。
※弁護士会照会 |
弁護士が依頼された問題を解決するために必要な、証拠や資料の収集、事実調査をする際に、円滑に行うため、各機関に対し照会(問い合わせる)することができる制度です。 弁護士個人ではなく、弁護士会が照会の必要性を審査した上で、照会されます。 |
相手の勤務地は一般的に、探偵に依頼し探してもらいます。弁護士が相手の会社を探すことは通常ありません。
人探しの費用相場は一般的に、1回の調査で50〜70万円になります。ただし、事務所によって料金が違うので、費用も含め一度相談してみましょう。
【関連記事】
▶人探しを探偵に依頼したときの料金相場と安くする方法・注意点まとめ
ここでは、給料の差し押さえについて具体的に解説します。
給料差し押さえの範囲は、給料から税金などを控除した残額の2分の1になります。ただし、残額が66万円を超える場合は、33万円を相手方に残し、それ以外は差し押さえることが可能です。
例えば、給料から税金などを控除した残額が30万円の場合(例1)と、100万円の場合(例2)。差し押さえの範囲は、下の表のようになります。
(参考:差押可能な給料の範囲|裁判所)
給料は、未払い金額分まで毎月差し押さえられます。
給料の差し押さえでは、将来分の養育費に対し差し押さえを申し立てることが可能です。未払い分と併せて一括で申し立てられます。
将来分の養育費も差し押さえておくことで、相手が会社を辞めない限り、毎月給料から養育費を受け取ることができるのです。また、一度申し立ててしまえば、毎月申し立てる必要がありません。
ただし、将来分の養育費は、支払い期限日後に支払われる給料からでないと、取立を行うことができません。
例として、下図をご覧ください。『支払い日』が養育費の支払い期限になっています。
このように、7月15日の養育費は、支払い期限を過ぎた7月20日の給料からでないと取立することができません。
差し押さえた給料の受け取り方は2つあります。
1つは、ご自身で相手が勤務する会社に連絡し、支払い方法や期限などを決める受け取り方です。
この行為を『取立』と呼び、行った後は『取立届』を裁判所に提出します。また、支払われた後は『取立完了届』を提出する必要があります。
会社が直接支払うのではなく、該当者の給料を法務省に提出し、法務省で管理されることがあります。
このような場合、裁判所が仲介しますので、裁判所を通しての支払いになるでしょう。
相手の勤務先が家族経営だったり、社長と仲がよかったりした場合など、差し押さえ通知が届いているにもかかわらず、支払いをしないという可能性も考えられます。
この場合は、会社に対して取立訴訟(※)を提起することができます。取立訴訟で勝訴すれば、会社の売掛金、不動産、動産(日常生活の設備など)の会社財産を差し押さえすることが可能です。
【関連記事】▶養育費の強制執行|お金が取れない場合にできる2つのこと
※取立訴訟 |
給料を支払っている会社に対し、差し押さえた金銭の支払いを求める裁判のこと。 |
預貯金口座の差し押さえで養育費をしっかり確保するためには、タイミングが大切です。ここでは、預貯金口座の差し押さえについて詳しく解説します。
預貯金口座の差し押さえは、給料と違って禁止されている範囲がありません。そのため、差し押さえ時点で存在する金銭すべての差し押さえが可能です。
一気に未払い分の養育費を回収できる可能性もありますし、まったく預金がなく空振りに終わる可能性もあります。
給料の差し押さえと違い、将来の養育費に対しての差し押さえはできません。また、今後入金される金銭に対して差し押さえをする場合、再度差し押さえの申立てを行う必要があります。
預貯金口座の差し押さえは、給料日やボーナスの翌日など残高が最も多いと思われるタイミングを狙いましょう。
そうすることで、残高が少なかったり空振りになってしまったりすることを回避できるかもしれません。
差し押さえすると、裁判所から預金口座のある金融機関に通達がいき、口座が凍結されます。その後、ご自身で金融機関に対し取立を行います。
話す内容や、取立後に提出する書類は会社への場合と同じです。▶参考:①自分で取立を行う
差し押さえは、下図のような流れで行われます。
ご自身で行うこともできますが、弁護士への依頼でスムーズに進めることが期待できます。
必要書類は債務名義によって異なります。
ご自身の手元にある正本を確認の上、必要な書類を確認しましょう。
給料の差し押さえを考えている場合の申立て先は、相手の勤務先を管轄している裁判所。預貯金口座の差し押さえを考えているのであれば、該当口座を管轄している裁判所に申し立てます。(裁判所一覧|裁判所)
申立ての際は、書類に使用した印鑑を持参しましょう。書類に修正箇所があった場合などに必要になります。
スムーズに書類を受理してもらうためにも、弁護士へ依頼することも検討しましょう。
申立て費用は、以下のようになります。
切手の金額や枚数は、状況によって変動しますので、申立て先の裁判所に一度確認することをおすすめします。
裁判所は申立てを受け、該当の会社または金融機関に対し、差押え命令の発令および同命令正本を発送します。
送達命令が送達された1週間後から取立を行うことができます。
養育費の未払いに対しては、差し押さえ(強制執行)を行うことが可能ですが、個人でやり遂げるとなると重厚な手続きが多いため難しいように感じることもあるでしょう。
手続きに不安がある方や精神的な負担を減らしたい方、未払いの養育費が重なり高額になっている方は弁護士への依頼も有効であることを覚えておくと良いかもしれません。
専門の知識を有する弁護士は、あなたにとって有益なアドバイスをしてくれるでしょう。相談を受けるだけでも、今後用意すべきものや解決までの道筋など、明確なアドバイスをもらえるかもしれません。
弁護士に依頼した場合には以下のようなメリットがあります。
未払い養育費の差し押さえ(強制執行)方法は上記の通りですが、個人で行うとなると非常に大変です。複雑な手続きに追われながら、精神的な負担を負うことにもなります。ですので、未払い養育費に悩んでいる方は、一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。
また、未払い養育費を回収するにあたり、差し押さえ(強制執行)は有効な方法ではありますが、支払い催促や任意交渉などの他の方法も存在します。
事案によっては、他の方法で問題を円滑に解決できることもあるかもしれません。弁護士に依頼していれば、その状況に最適な方法で解決を目指してくれるでしょう。
【関連記事】離婚問題を弁護士に無料相談できる窓口|相談すべきケースやタイミング、選び方を解説
未払い養育費の差し押さえについて、弁護士に依頼した場合には、主に以下の費用がかかります。
弁護士費用に関しては、事務所によって異なる基準を設けているケースもありますので、相談時または相談前にどの程度の弁護士費用が必要になるかを、事務所に問い合わせてみると良いかもしれません。
民事執行法改正前の2020年2月現在、強制執行は相手の勤務先または口座情報さえ特定できていれば、1人で行うこともできます。
とはいえ、書類の作成や会社(金融機関)への取立をご自身で行うのは難しいと感じてしまうかもしれません。そのような場合は、早めに弁護士へ相談してみましょう。
また、令和2年4月1日に施行される民事改正執行法により、未払い養育費差し押さえの実行力に影響が生じますので、差し押さえ等検討している方は目を通しておくと良いかもしれません。
【関連記事】
▶養育費獲得の完全ガイド|増額や支払いを続けてもらう知識
▶養育費の支払いは公正証書に残すべき理由と書き方・作成の流れ
出典一覧 |
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