養育費の先取特権とは?離婚後の養育費回収がしやすくなる新制度をわかりやすく解説
令和6年5月17日の民法改正により、養育費債権に先取特権が付与されることが決まりました。
これにより、従来と比べて養育費の未払いを防ぎやすくなる可能性があります。
しかし、そもそも先取特権とはどのような権利なのか、実際に先取特権を行使した場合の養育費回収方法など、わからないことも多いはずです。
そこで本記事では養育費の先取特権について、制度の内容や養育費の回収方法、注意点などをわかりやすく解説します。
養育費の先取特権とは|他債権者より優先的に養育費を回収できる権利
そもそも先取特権とは、債務者から他の債権者より優先して弁済を受けられる権利のことです。
たとえば、AとBの2人から500万円ずつ(合計1,000万円)借金をしているCがいるとしましょう。
この場合、AとBはどちらもCに対する債権を平等に持っており、仮にCが500万円の財産しか持っていない場合は、250万円ずつをAとBに返済することになります。
しかし、仮にAが所有する500万円分の債権について先取特権が認められている場合、AはCから500万円を優先的に返済してもらうことが可能です。
つまり、今回の民法改正後に養育費の先取特権を行使すれば、債務者(養育費を支払う側)に複数の借金があっても、債権者(養育費をもらう側)は真っ先に自身の取り分を確保できるようになります。
現在、離婚後におよそ7割の家庭が養育費未払いとなっている現状を踏まえると、養育費に先取特権が付与されることで、未払いの養育費を回収しやすくなる可能性があるといえるでしょう。
先取特権により債務名義がなくても養育費を獲得するための強制執行が可能に
養育費に先取特権が付与されれば、債務名義がなくても養育費の強制執行が可能になります。
現状、相手の口座等を差し押さえるには、調停調書や判決といった債務名義が必要です。
しかし、債務名義を得て実際に差し押さえまでおこなうには一定程度の時間と費用がかかるため、一般的にはハードルの高い手続きだといえます。
しかし、先取特権があれば、債務名義がなくても強制執行が可能です。
債務名義を獲得する手間もなく、未払いが発生した段階で早急に財産を差し押さえられるので、養育費をスムーズに回収できる可能性が高まるでしょう。
養育費の先取特権(民法改正)はいつから?
令和6年5月17日の民法改正で養育費に先取特権が付与されることが決まり、令和8年4月1日に改正法が施行される予定です。
まだ明確な日付が確定しているわけではありませんが、遅くとも令和8年中には養育費に先取特権が付与されるでしょう。
民法改正で養育費の先取特権にあわせ「法定養育費」制度も導入される
令和6年の民法改正により、養育費の先取特権にあわせて「法定養育費」も導入されます。
法定養育費とはどのような制度なのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
離婚時に具体的な取り決めをしていなくても法定養育費は請求できる
法定養育費とは、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても、法律で定められた一定の金額を離婚日にまでさかのぼって請求できる制度のことです。
現行制度では、原則として協議・調停・裁判などで事前に取り決めた養育費しか請求できません。
しかし実際には、養育費の話し合いすらできていないケースや、支払いがなされていない家庭も多く存在します。
一方、法定養育費が導入されれば、今後は取り決めの有無に関わらず最低限の養育費を相手に請求できるようになるのです。
法定養育費の金額は?計算方法は?
法定養育費の額は、法務省令で子ども1人あたり月額2万円 と定められました。
そのため、子どもが2人なら月4万円、3人なら月6万円が法定養育費となります。
とはいえ、2万円という金額は決して十分とはいえず、法定養育費だけで子どもを養育するのは難しいでしょう。
民法改正で養育費の先取特権や法定養育費が導入された背景
民法改正によって養育費の先取特権や法定養育費が導入された背景には、現状の養育費の受給状況の課題が挙げられます。
「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、ひとり親家庭の養育費受給率は、以下のとおりです。
|
現在も養育費を受けている |
28.1% |
|
養育費を受けたことがある |
14.2% |
|
養育費を受けたことがない |
56.9% |
|
不詳 |
0.8% |
|
現在も養育費を受けている |
8.7% |
|
養育費を受けたことがある |
4.8% |
|
養育費を受けたことがない |
85.9% |
|
不詳 |
0.6% |
このデータを見ると、継続して養育費が支払われている割合は母子世帯で28.1%、父子世帯で8.7%と非常に低い数字となっています。
この状況は、養育費が「子どもの監護や教育のために必要な費用」という目的を持つうえで、好ましいとはいえないでしょう。
そんな状況を改善するために、差し押さえを容易にする先取特権や、取り決めをしていなくても一定の養育費を支払ってもらえる法定養育費制度が導入されることになったのです。
養育費の先取特権に関する注意点
先取特権が導入されれば、現状に比べて養育費の差し押さえに着手しやすくなるでしょう。
ただし、いくつか注意点も存在します。
以下で詳しく見ていきましょう。
先取特権が付与される養育費の金額には上限がある
先取特権が付与される養育費の金額には、法務省令によって1人当たり8万円という上限が設けられています。
取り決めた養育費の全額に先取特権が付与されるわけではないので、注意しましょう。
上限額以上の養育費を強制執行で獲得するには従来通り債務名義が必要
先取特権が扶養されるの上限額である月額8万円を超える部分の養育費を強制執行で獲得したいなら、従来通り債務名義が必要です。
なお、債務名義には以下のようなものが該当します。
- 調停調書の正本
- 審判書正本
- 執行文付きの公正証書正本
- 執行文付きの判決正本もしくは和解調書正本
離婚協議書や合意書といった書面は債務名義には該当しません。
そのため、高額な養育費を取り決める予定で、裁判手続きをせずに離婚を進めるなら、合意内容を公正証書に残しておくべきでしょう。
先取特権があっても離婚協議書などの書面がなければ強制執行は不可
養育費の先取特権が行使できるのは、離婚協議書などの書面がある場合のみです。
先取特権を行使して強制執行をおこなうには、担保権の存在を証明する文書を裁判所に提出する必要があります(民事執行法第193条)。
口約束だけで協議内容を書面にしていなければ、担保権の存在は証明できません。
先取特権を行使するには、最低でも離婚協議書などの書面が必要になることを覚えておきましょう。
法定養育費については書面がなくても先取特権により強制執行が可能
法定養育費のみであれば、離婚協議書などの書面がなくても、先取特権によって強制執行が可能です。
そもそも法定養育費とは、事前の取り決めがなくても獲得できる最低限の養育費のことです。
法定養育費にも先取特権が付与されるため、離婚協議書などの書面がなくても強制執行ができます。
養育費の回収について離婚問題に強い弁護士に相談・依頼するメリット
離婚後に養育費の未払いが心配であれば、離婚問題に強い弁護士への相談・依頼がおすすめです。
養育費の先取特権が導入されれば、未払い時の強制執行が容易になります。
ただし、先取特権を行使できる養育費には上限があり、満額を回収するには従来通りの債務名義が必要です。
離婚前から弁護士に相談しておけば、養育費の未払いを見越した公正証書の作成や、調停・裁判手続きを進めてくれます。
未払い発生時にすぐ動けるようサポートしてくれるので、安心だといえるでしょう。
離婚問題に強い弁護士をお探しなら、ベンナビ離婚の活用もおすすめです。
お住まいの地域や相談内容、相談スタイルなどで条件を絞り、ご自身の希望に合う弁護士を簡単に見つけられるでしょう。
さいごに|新しい養育費のルールを確認しておこう
先取特権および法定養育費制度が実現すれば、養育費の未払い問題に一定の歯止めをかけることが期待されます。
ただし、先取特権の行使には離婚協議書などの書面が必要で、先取特権が付与される養育費の金額には上限があります。
そして法定養育費は月2万円(子ども1人あたり)と定められており、養育に十分な金額とはいえません。
制度を正しく理解しておかなければ、いざ未払いが起きた際に思ったような金額を回収できない可能性もあるでしょう。
そのため、養育費の未払いを見越した対策をしたいなど、離婚後の養育費に不安があるなら早めに弁護士へ相談することが大切です。
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