統合失調症の夫・妻と離婚は可能?相手が離婚に応じない場合はどうすればいい?
- 「パートナーが統合失調症と診断され、献身的に支えてきたけれど、心身ともに限界を感じている」
- 「統合失調症のパートナーと離婚はできるの?」
パートナーが統合失調症を患っている方の中には、このような悩みを抱えている方も多いでしょう。
統合失調症のパートナーとの離婚は、当事者同士で合意ができるか、もしくは裁判で離婚事由として認められる事情があるかがポイントとなります。
本記事では、統合失調症のパートナーとの離婚について、わかりやすく解説します。
どのような手続きがあるのか、相手が離婚に同意してくれない場合はどうすればいいのか、そして裁判になったときに何が重要になるのか、具体的な状況ごとに紹介するので、ぜひ参考にしてください。
統合失調症の夫・妻と離婚できる?
結論からいうと、統合失調症のパートナーと離婚することは可能な場合があります。
ただし、その方法は状況によって大きく異なります。
まず、離婚には大きく分けて「話し合いで離婚する方法(協議離婚・調停離婚)」と「裁判所を介して離婚する方法(裁判離婚)」があります。
以下では、それぞれの方法を見ていきましょう。
夫・妻と話し合いで合意ができれば離婚が可能
離婚の最もシンプルな方法は、夫婦がお互いに離婚に合意することです。
これを「協議離婚」と呼びます。
協議離婚の場合、離婚届に夫婦それぞれが署名・捺印し、役所に提出すれば離婚は成立します。
この場合、離婚の理由は問われません。
それが性格の不一致であれ、パートナーの病気が理由であれ、双方が納得していれば問題ないのです。
ただし、パートナーが統合失調症を患っている場合、パートナー自身に「意思能力」があるかどうかがポイントになります。
意思能力とは、簡単にいうと「離婚がどういうものか、離婚したあとの生活がどうなるかを正しく理解し、自分の意思で判断できる能力」のことです。
統合失調症の症状が薬などでコントロールされていて、冷静な判断ができる状態であれば、協議離婚は有効な選択肢です。
しかし、パートナーが意思能力のない状態で離婚に合意してしまった場合、あとになってからその離婚が無効だと主張されるリスクがあります。
そのため、たとえ話し合いで円満に離婚できそうだと感じても、パートナーの意思能力に少しでも不安がある場合は、慎重に話し合いを進める必要があるでしょう。
夫・妻が離婚に合意してくれない場合は?
パートナーが離婚を拒否している、あるいは症状のために話し合いがまったくできないという場合、以下のような裁判所の手続きを利用することになります。
- 離婚調停
- 離婚裁判
それぞれの手続きについて、詳しく見ていきましょう。
調停での離婚成立を目指す
当事者の話し合いで離婚に合意できない場合、まずは離婚調停をおこないます。
離婚調停とは、裁判官と一般から選ばれた調停委員という男女2名の専門家が夫婦の間に入り、双方の意見を聞きながら、合意を目指す手続きです。
調停委員が中立的な立場で間に入ってくれるため、夫婦だけで直接話すよりも感情的にならずに済みます。
特に、パートナーを刺激したくない、冷静に話し合いたいという場合には有効な方法です。
なお、離婚調停を経ずに離婚裁判を起こすことは原則としてできません。
「調停前置主義」といい、まずは調停を経てから裁判を起こす必要があることを覚えておきましょう。
調停で合意できなければ離婚裁判を提起する
調停でもお互いの意見がまとまらず、合意に至らなかった場合、調停は不成立となります。
それでも離婚を望むのであれば、次のステップとして離婚裁判を提起しましょう。
離婚裁判では、話し合いではなく、裁判官が法律と証拠に基づいて「離婚を認めるか、認めないか」を最終的に判断します。
そして、裁判で離婚を認めてもらうためには、法律で定められた離婚理由、すなわち法定離婚事由が存在することを、離婚を求める側が証明しなければなりません。
詳しくは、本記事内「離婚裁判で離婚が認められるには「法定離婚事由」が必要」でも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
夫・妻に「意思能力がない」場合は後見人が必要となる
パートナーの統合失調症の症状が重く、意思能力がまったくない状態だと、法的な手続きを進めるうえで大きな壁にぶつかります。
意思能力がない相手とは、離婚の話し合いも、調停もできません。
さらに、裁判を起こすことすらできないのです。
なぜなら、訴えられる側も訴えられた内容を理解し、反論する権利があるからです。
このような場合、「成年後見制度」を利用する必要があります。
まず家庭裁判所に申し立てて、パートナーのために「成年後見人」を選んでもらうのです。
成年後見人とは、本人に代わって財産を管理したり、法的な手続きをおこなったりする人で、通常は親族や弁護士などの専門家が選ばれます。
後見人が選任されたら、あなたはその後見人を相手取って、離婚調停や裁判を進めていくことになります。
離婚裁判で離婚が認められるには「法定離婚事由」が必要
調停が不成立に終わり、離婚裁判に進んだ場合、離婚が認められるには以下の法定離婚事由に該当する必要があります。
- 配偶者に不貞な行為があったとき(浮気や不倫)
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき(生活費を渡さない、理由なく家を出て行くなど)
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
パートナーの統合失調症を理由に離婚を求める場合、主に4番目の「強度の精神病」か、5番目の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当てはまるかが問題となります。
ここからは、統合失調症が離婚事由に該当する基準や可能性について見ていきましょう。
統合失調症が法定離婚事由となる基準
統合失調症が法定離婚事由として認められるには、医学的な重度性・夫婦生活への影響・これまでの支援姿勢・離婚後の生活保障の4点が総合的に判断されます。
それぞれのポイントについて、以下で詳しく見ていきましょう。
医師が「症状が強度で回復の見込みがない」と判断するか
統合失調症が離婚事由として認められるかどうかは、医師の医学的判断が最も重要です。
裁判所は専門家である医師の診断書・カルテ・意見書を基に、「症状が強度か」「回復の見込みが乏しい(不治)と判断できるか」を慎重に評価します。
これは、精神疾患は症状の波があるため、一般人の主観では判断できないからです。
医師が「継続的な治療が必要で、治癒可能性が低い」「社会生活や家庭生活に著しい支障がある」と明確に示す場合、離婚事由としての成立が視野に入ります。
一方で、治療やサポートによって改善の可能性があるケース、または診断が十分に定まっていないケースでは、離婚理由としては認められにくくなるでしょう。
夫婦関係が破綻するほど強度な症状か
離婚が認められるには、統合失調症の症状が「夫婦としての基本的な生活を維持できないほど重い」ことが必要です。
具体的には、意思疎通が難しい、共同生活が破綻している、相互扶助が成立しないなど、婚姻生活の基盤が崩れていることが判断基準になります。
これまで十分な診療を受け家族も協力していたか
裁判所は、あなたがこれまでパートナーの病気にどれだけ向き合い、支援してきたかを非常に重視します。
離婚が認められるのは、「できる限りの手を尽くしたが、それでも生活の維持が難しかった」という状況であり、病気が発覚してすぐ離婚を求めるような行動は「見捨て行為」として厳しく評価されます。
具体的には、通院や治療への同行、服薬のサポート、カウンセリングへの協力、家庭内での配慮など、あなたがおこなってきた支援の積み重ねが重要です。
また、家族や親族が治療に協力してきたかどうか、治療方針について医師と相談してきたかといった点も判断材料になります。
つまり、「支える努力をしたうえでそれでも困難だった」という事実が必要であり、それが離婚を認めてもらうための大きな条件となるのです。
離婚しても配偶者が困窮せず暮らしていけるか
離婚が認められるかどうかで重視されるのが、離婚後も配偶者が困窮せず生活できるかという点です。
裁判所は、統合失調症の配偶者が離婚によって路頭に迷う事態を避けるため、「具体的方途論」という考え方で判断します。
そのため、あなたは離婚後の配偶者の生活設計を現実的かつ具体的に示さなければなりません。
例えば、十分な財産分与をおこない当面の生活費を確保する、親族が支援する確約を得る、障害年金や生活保護の手続きに協力する、療養施設への入所を手配するなどの対策が求められます。
裁判所が「この人はパートナーを見捨てる意図ではなく、誠実に将来を考えている」と判断して初めて、離婚が認められる可能性が生まれることを覚えておきましょう。
統合失調症が法定離婚事由の原因と認められる可能性は高いとはいえない
統合失調症を法定離婚事由として認めてもらえる可能性は、決して高いとはいえません。
その背景には、医学の進歩があります。
かつて統合失調症は「不治」と考えられていたため、「回復の見込みがない」という法律の要件を満たしやすい時代がありました。
しかし現在は、新しい薬や治療法が確立し、多くの患者が症状をコントロールしながら安定した生活を送れるようになっています。
そのため、治療で改善の可能性がないとはいいきれず、離婚が認められにくいのが実情です。
また、現行法上は「強度の精神病」を理由にした離婚が可能ですが、2026年4月1日施行予定の改正民法により、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という規定は削除されることが決まっています。
そのため、今後は「婚姻を継続し難い重大な事由」を理由とした離婚を目指すケースが中心になるでしょう。
統合失調症を理由とした離婚が裁判で認められない場合は?
「強度の精神病」という法定離婚事由に該当しない場合は、5番目の法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を主張する方法を検討しましょう。
病気そのものではなく、病気が原因で引き起こされたさまざまな問題によって、夫婦関係が完全に壊れてしまい、回復の見込みがまったくない状態であることを主張するのです。
具体的には、以下のようなケースであれば「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」と主張できます。
- 病気の症状が原因で、パートナーから暴力や暴言(DV・モラハラ)が繰り返され、心身の安全が脅かされている
- 長年の看病によって、あなた自身が心身ともに疲れ果て、うつ病になるなど、これ以上結婚生活を続けることが不可能になっている
- 病気の影響で、夫婦としてのコミュニケーションや心の交流が完全に失われてしまった
なお、裁判で「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」と認められなかった場合、次の有効な手段となるのが「別居」です。
長期間の別居は、それ自体が夫婦関係が破綻していることの強力な証拠となります。
長期間の別居という事実をもって、改めて「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚裁判を起こせば、離婚が認められる可能性は高まるでしょう。
ただし、離婚しないまま別居を続けることには、メリットとデメリットの両方があります。
必要に応じて弁護士への相談も検討しながら慎重に判断しましょう。
統合失調症を理由に離婚したいとき弁護士に相談・依頼すべき理由
統合失調症を理由に離婚を進める場合、弁護士への相談・依頼はほぼ必須といえます。
なぜなら、統合失調症のパートナーとの離婚は、医学的・法律的・生活支援的な複数の要素が絡み合い、自力で判断・対応するにはあまりにも複雑だからです。
まず、弁護士はあなたとパートナーの状況を踏まえ、「強度の精神病」を主張すべきか、「婚姻を継続し難い重大な事由」を選ぶべきか、あるいは別居から始めるべきかなど、最適な戦略を法律的に判断してくれます。
また、本人との交渉は症状を悪化させるリスクがありますが、弁護士が代理人として対応することで、精神的負担が大きく軽減されるでしょう。
さらに、訴訟に向けた証拠収集(診断書、看病記録、生活設計資料など)についても専門的なアドバイスが得られ、準備を効率よく進められます。
そのほか、財産分与や養育費などの条件交渉においても、あなたの生活と相手の療養を両立させるバランスの取れた解決策を導いてくれるため、より有利かつ安心できる形で離婚を進められる点が大きなメリットです。
統合失調症の配偶者と離婚を検討する場合のよくある質問
最後に統合失調症の配偶者と離婚を検討する際によくある質問を紹介します。
親権はどうなりますか?
離婚の際に未成年の子どもがいる場合、親権をどちらが持つかは「子どもの利益と福祉」を最優先に判断されます。
パートナーが統合失調症だからといって、それだけで自動的に親権者になれないわけではありません。
症状が安定しており、子どもの面倒をきちんと見ることができる「監護能力」があれば、親権が認められる可能性は十分にあります。
しかし、病状が不安定で育児放棄(ネグレクト)や虐待のおそれがある、子どもに危険が及ぶ可能性がある、といった場合には、もう一方の親が親権者としてふさわしいと判断されることになります。
統合失調症になった原因の一部が自分にある場合も離婚は可能ですか?
もし、あなたの不倫やDV、ひどいモラハラなどが原因でパートナーが精神的に追い詰められ、統合失調症を発症・悪化させたと認められた場合、あなたは「有責配偶者」、つまり夫婦関係を壊した責任がある側とみなされます。
そして、法律上、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。
自分から関係を壊しておきながら、一方的に離婚を求めるのは身勝手だ、というのが基本的な考え方です。
ただし、絶対に離婚できないわけではありません。
長期間の別居があり、未成年の子どもがいない、そして離婚しても相手が経済的に困窮しないような十分な手当をする、といった厳しい条件をクリアした場合に限り、例外的に離婚が認められることがあります。
もし心当たりがある場合は、その事実を隠さずに弁護士に相談することが重要です。
正直に話すことで、最善の対応策を一緒に考えてもらえるでしょう。
さいごに|統合失調症の相手と離婚したい場合は弁護士に相談を!
統合失調症のパートナーとの離婚は、法的なハードルが高いだけでなく、長年連れ添った相手への想いや罪悪感など、言葉では言い表せないほどの葛藤を伴うことでしょう。
しかし、あなた自身の人生を守るために、新しい一歩を踏み出すことは決して間違った選択ではありません。
本記事で解説したように、離婚への道筋はひとつではありません。
話し合いで解決できることもあれば、調停や裁判、あるいは戦略的な別居が必要になることもあります。
どの道を選ぶべきか、そしてその道を着実に進むためには、法律の専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
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