離婚前提の別居でも生活費はもらえる?婚姻費用の条件と請求する際のポイントを紹介
「すぐにでも別居をしたいけど、生活費を払ってもらえるか不安」
このように配偶者の不倫や暴力に悩み、離婚や別居を検討しているものの、別居後の生活費が不安でなかなか行動に移せない人も多いのではないでしょうか。
実際のところ、離婚を前提に別居している場合でも、婚姻関係が続いている限り、相手方に生活費(婚姻費用)を請求できる可能性はあります。
ただし、別居しているからといって必ず婚姻費用を請求できるわけではないため、生活費を受け取るための条件をしっかり確認しておくことが大切です。
本記事では、離婚前提の別居で生活費を受け取れる条件や請求の流れなどをわかりやすく解説します。
離婚までの間も安定した生活を維持するために、権利を正しく理解し、適切に行動しましょう。
離婚前提の別居であっても生活費(婚姻費用)は請求できる
離婚を前提として別居している場合でも、婚姻関係が続いている限り、原則として生活費(婚姻費用)は請求可能です。
民法第760条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定されており、婚姻関係が継続している限り、生活費を分担する義務は消えません(ただし、形式的に婚姻が続いていても、実質的に婚姻関係が破綻している場合には、請求が認められない例もあります)。
なお、婚姻費用には食費や家賃などの日常的な生活費だけでなく、医療費や子どもの教育費なども含まれます。
また、婚姻費用の請求は話し合いや内容証明郵便での通知により進めるのが一般的ですが、相手との合意が得られない場合は家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てることにより回収が可能です。
離婚成立までの生活基盤を確保するためにも、別居開始後できるだけ早く請求手続きをおこないましょう。
離婚前提の別居で配偶者から生活費を受け取るための条件
離婚前提で別居していても、離婚届を提出して法的に婚姻関係がなくなるまでは相手から生活費を受け取れる可能性があります。
ただし、生活費を受け取るためには以下の3つの条件を満たしている必要があります。
- 別居状態が続いていること
- 配偶者よりも収入が少ないこと
- 自分が別居理由を作っていないこと
それぞれについて、わかりやすく解説します。
1.別居状態が続いていること
婚姻費用は、夫婦が別居していて共同生活を送っていない場合にのみ請求できます。
別居していない状態では、生活費は日常的に世帯で共有されているとみなされるため、個別で請求することは現実的ではありません。
なお、同じ家に暮らしながら別々の暮らしをしており、家計も分けている場合は、実質的に別居しているとして例外的に婚姻費用の請求が可能とした例もあります。
別居中でも一時的な帰宅や連絡がある場合は直ちに条件を満たさなくなるわけではなく、実態として生活を別にしていることが重要です。
2.配偶者よりも収入が少ないこと
婚姻費用は「夫婦間の生活水準を等しくするための費用」です。そのため、婚姻費用を請求する側の収入が相手と同等かそれ以上の場合、請求は難しいでしょう。
自分の年収が配偶者より大幅に少ない場合、算定表を基にした婚姻費用額が認定されやすくなります。
一方、収入差が小さい場合や自分のほうが収入が高い場合は、請求しても金額が低くなるか、認められない可能性があります。
年収には給与収入だけでなく事業収入や不動産収入も含まれるのが一般的なので、全体の所得を把握したうえで比較することが重要です。
なお、夫婦の収入が同程度でも、いずれか一方が子どもを監護している場合は、子どもを監護している側が相手方に対して婚姻費用を請求できる可能性があります。
3.自分が別居理由を作っていないこと
婚姻費用は、夫婦が互いに扶養義務を負うことを前提にしていますが、自らの重大な有責行為で別居に至った場合は減額や不支給となることがあります。
たとえば、一方の不貞行為や家庭内暴力、過度な浪費などが原因で別居になったケースでは、その原因を作った側が婚姻費用を請求するのは現実的ではないでしょう。
いくら収入が相手より低いとしても、別居に至る原因を作った側が婚姻費用を請求することは原則として認められず、仮に認められたとしても大きく減額される可能性が高いです。
ただし、有責行為をした側が子どもを監護している場合に限り、子どもの養育費分の請求は認められます。
離婚前提の別居で生活費を請求する際の3つのポイント
離婚前提で別居する場合、婚姻費用を適切に受け取るためには、事前準備と早めの行動が重要です。
特に、以下の3点を押さえておきましょう。
- 同居の段階で配偶者の収入を把握しておく
- できる限り早い段階で生活費を請求する
- 離婚問題が得意な弁護士に相談しておく
これらを意識することで、金額の算定や手続きがスムーズになり、支払いを確実に受けられる可能性が高まります。
それぞれのポイントについて、重要な理由も含めて具体的に解説します。
1.同居の段階で配偶者の収入を把握しておく
婚姻費用の金額は夫婦の収入差に基づいて算定されるため、まずは相手の収入を把握しておくことが重要です。
同居中であれば、給与明細や源泉徴収票、確定申告書などを目にする機会がありますが、別居後は入手が困難になります。
収入を示す証拠がないと、調停や裁判で金額が低く見積もられたり、相手が収入を過少申告して争いになることもあります。
別居を検討し始めた時点で、可能な限り正確な収入資料をコピーや写真で保管しておけば、将来の婚姻費用請求の強い武器となるでしょう。
収入を示す資料がなかったり、相手側が収入を低く申告してきたりした場合は、弁護士を介して相手方と交渉することで資料を開示してもらえる可能性があります。
2.できる限り早い段階で生活費を請求する
婚姻費用の支払開始時期は、実務上請求時または調停申立時が原則とされます(別居後の経過や支払意思の有無などの事情によっては、一部遡及が認められる裁判例も存在しますが、あくまで例外的です)
つまり、別居後に請求が遅れた場合、その期間の生活費は受け取れなくなる可能性があります。
また、請求が遅れたことによって相手側に収入や資産を隠す時間を与えてしまうリスクもあります。
そのため、別居が決まった段階、もしくは別居直後に内容証明郵便などで請求意思を明確に示しましょう。
早期の請求は金銭的な損失を防ぐだけでなく、相手に支払い義務を自覚させる効果もあるため重要です。
3.離婚問題が得意な弁護士に相談しておく
婚姻費用の請求は、単に金額を計算すれば済む問題ではなく、証拠収集や交渉、調停申立てなどの専門的な対応が必要になる場合があります。
そのため、手続きに不安がある場合は弁護士に相談するのがおすすめです。
離婚問題に強い弁護士であれば、過去の事例や算定表をもとに適正な金額を見極めたうえで、支払い確保のための戦略を立ててくれます。
支払い拒否や未払いが発生した場合の強制執行まで見据えたアドバイスを受けられるのもメリットです。
別居や離婚の話し合いを優位に進めるためにも、早い段階で信頼できる弁護士に相談しておきましょう。
実際に離婚前提の配偶者から婚姻費用を受け取る手順
離婚前提の配偶者から婚姻費用を受け取るためには、以下の手順を踏みましょう。
- 別居を開始する
- 算定表をもとに婚姻費用を計算する
- 相手方に対して婚姻費用を請求する
- 相手方から婚姻費用が支払われる
各ステップの注意点なども含めて、詳しく解説します。
1.別居を開始する
婚姻費用は、原則として夫婦が別居状態になった時点から請求が可能になります。
同居中で請求できるケースもありますが、家庭内別居をしていたり生活費の未払いがあったりなどの特別な事情がある場合を除き、別居後の請求が一般的です。
そのため、別居の事実を証明できるよう、住民票の移動や新しい住居の契約などをおこなっておくことが大切です。
2.算定表をもとに婚姻費用を計算する
婚姻費用の金額は、夫婦双方の年収や子どもの人数・年齢を基準にした「婚姻費用算定表」を用いて算出します。
算定表は家庭裁判所のWebサイトで公開されているので、ダウンロードして確認してみましょう。
なお、算定表を使うには相手の年収を知っている必要がありますが、相手の年収は源泉徴収票や確定申告書、給与明細などから把握する必要があります。
別居前に資料を確認してコピーなどをとっておくことが望ましいですが、資料を入手できない場合は弁護士に相談して相手に開示してもらうように交渉することも検討しましょう。
3.相手方に対して婚姻費用を請求する
金額を算出したら、内容証明郵便などで請求意思を明確に伝えます。
婚姻費用の支払い開始時期は、相手方に請求した日以降となるため、早めの行動が重要です。
口頭やメールだけではあとで「請求していない」と争われる恐れがあるため、必ず内容証明郵便で請求してしっかり証拠を残しておきましょう。
なお、婚姻費用の請求書には、別居を開始したことにより婚姻費用を請求する意思がある旨と、婚姻費用の請求には法的義務があることなどを記載します。
婚姻費用算定のために必要な資料が手元にない場合は、確定申告書や源泉徴収票など収入を示す書類の送付も合わせて請求しましょう。
必要に応じて婚姻費用分担請求調停を申し立てる
相手が婚姻費用の支払いに応じなかったり、金額で折り合いがつかなかったりする場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てます。
調停では、中立な調停委員を介して双方の収入状況や生活実態を確認し、算定表を基準にした適正額を提示します。
調停の結果、婚姻費用の請求が認められた場合は調停調書が作成され、未払いがあった場合は強制執行が可能です。
調停でも相手方との合意が得られない場合は、裁判所に対して婚姻費用分担審判を申し立て、裁判所から請求権を認めてもらう必要があります。
4.相手方から婚姻費用が支払われる
相手方との交渉や、調停や審判で合意が成立すると、婚姻費用の支払いが開始されます。
調停によって婚姻費用請求が認められた際に作成される調停調書には法的拘束力があり、未払いがあった場合は強制執行も可能です。
婚姻費用の支払いは、基本的に月ごとの定額払いとなりますが、相手方との交渉次第では未払い分を含めて一括で請求できるケースもあります。
取り決め通りの支払いがおこなわれているかを確認するために入金日や入金額を記録し、未払いが発生した際に迅速に対応できるよう備えておきましょう。
長期的な別居の場合は、状況の変化に応じて金額の見直しを申し立てることも可能です。
さいごに|離婚前提であっても別居中は生活費を請求しよう!
本記事では、離婚前提で別居している配偶者から生活費を受け取るための注意点や、実際に生活費を請求する際の手続きの流れなどについて詳しく解説しました。
離婚前提の別居であっても、法律上は婚姻関係が続いている限り、配偶者には生活費(婚姻費用)を負担する義務があります。
請求する際は、別居の事実があることや相手方と収入差があることなどの条件を満たす必要がありますが、満たしていれば算定表を基準に適正額を受け取れます。
重要なのは、同居中から配偶者の収入を把握し、別居後は速やかに請求をおこなうことです。相手が支払いに応じない場合は、家庭裁判所の婚姻費用分担請求調停を活用すれば法的な裏付けをもった支払い命令を得られます。
生活の安定を守るためにも、早めに弁護士に相談して適切な行動を選択しましょう。
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