婚姻費用に家賃は含まれる算定表以上の生活費を請求するためのポイント

婚姻費用とは、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用です。
離婚を決意し別居したものの収入が少ない場合、配偶者に対し、離婚成立か別居解消までの間婚姻費用の分担を求められます。
民法第752条では夫婦の互いに扶助する義務が定められており、離婚に向けた話し合い中でも、収入の多いほうが少ないほうに金銭を支払う必要があります。
本記事を参考に、安心して生活を送れるよう、婚姻費用について理解を深めておきましょう。
婚姻費用算定表の金額には家賃が含まれている
裁判所が公表している婚姻費用算定表に基づいて算定された金額には、婚姻費用を受け取る側の家賃が含まれています。
ただし、支払う側が負担するのは「標準的な住居費」のみであり、権利者が過度に豪華なマンションを借りるなど、標準的な範囲を超える場合には、超過分まで負担する必要はありません。
また、状況に応じて算定額の調整や支払った家賃の控除が可能な場合もあります。
なお、婚姻費用には、衣食住の費用だけでなく、「出産費、医療費、子どもの養育費、教育費」など、夫婦が生活していくために必要な幅広い費用が含まれていると考えられています。
配偶者から婚姻費用算定表以上の家賃を受け取るコツ
配偶者から婚姻費用算定票以上の家賃を受け取るためには、主に3つの方法が考えられます。
- 協議で合意を得るようにする
- 家賃の増額が望めるケースを理解する
- 婚姻費用の請求が得意な弁護士に相談する
いずれも確実に算定表以上の家賃を受け取れるわけではありませんが、可能性は高くなります。
なぜそれぞれが重要なのか、その理由について解説します。
協議で合意を得るようにする
婚姻費用の請求を検討する際は、まず相手方に請求の意思を伝え、金額について話し合いましょう。
合意が得られれば、金額は自由に決定できるからです。
ただし、裁判所の「婚姻費用算定表」を参考にするケースが一般的です。
話し合いで合意に至らない場合は、裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることになります。
家賃の増額が望めるケースを理解する
家賃の増額が望めるケースについて理解しておくと、有利に進められる可能性があります。
別居後の家賃を増額できる主なケースについて、以下の表にまとめました。
婚姻費用を支払う側の有責性が高い場合 | 有責性の強い配偶者が同居を望む配偶者と子を家から追い出したような場合には、裁判所が追加の家賃負担を命じる可能性があります。 |
婚姻費用を支払う側がそのまま夫婦の家に住み続ける場合 | 婚姻費用を支払う側が単独で住宅ローンを完済した自宅に住み続ける場合、審判における婚姻費用の算定では、この事実が増額事由として考慮されることがあります。 |
婚姻費用の請求が得意な弁護士に相談する
婚姻費用などの離婚問題を得意とする弁護士への相談も検討しましょう。
弁護士に相談すれば、協議段階の交渉から代理してもらえるため、婚姻費用トラブルの早期解決を実現しやすくなります。
また、交渉段階から有利な証拠を揃えてもらえるので、よりよい条件での和解を成立させやすくなります。
万が一、調停・審判段階に移行しても、サポートを期待できるほか、婚姻費用以外の離婚問題全般の相談にも対応してもらえます。
別居後の家賃が減額される可能性があるケース
別居後の家賃が減額される可能性があるケースについても理解しておきましょう。
以下のようなケースでは、家賃が減額される恐れがあります。
- 婚姻費用を請求する側がそのまま夫婦の家に住み続ける
- 婚姻費用を請求する側が別居の原因を作った有責配偶者
上記2つのケースについて、以下で詳しく解説します。
婚姻費用を請求する側がそのまま夫婦の家に住み続ける場合
婚姻費用を支払う側が夫婦の家を出て別居し、請求する側が引き続き夫婦の家に住む場合、請求する側の居住費負担はないと考えられ、婚姻費用が減額される可能性があります。
ただし、住宅ローンの支払いがある場合は、その負担者によって結論が変わります。
- 婚姻費用を支払う側が住宅ローンを支払っている場合:自分の家賃も負担しているため、請求する側の居住費負担がないことを考慮し、婚姻費用から減額されることが多い
- 婚姻費用を請求する側が住宅ローンを支払っている場合:住宅ローンの支払いは夫婦の資産形成の意味合いが強く、離婚時の財産分与で清算すべきものと考えられています。
そのため、月々の生活費である婚姻費用とは性質が異なり、原則として、住宅ローンの支払いは婚姻費用の金額決定時に考慮されません。
婚姻費用を請求する側が別居の原因を作った有責配偶者の場合
婚姻関係破綻の原因を作った配偶者を「有責配偶者」といいます。
たとえば、DVや不貞が原因の離婚では、DVをした配偶者や不貞行為をおこなった配偶者が有責配偶者です。
有責配偶者が受け取る側であった場合、自ら婚姻関係を破綻させた原因を作ったにもかかわらず婚姻費用を請求するのは信義則に反するとして、制限されるケースがあります。
配偶者から十分な家賃を受け取れない場合の対処法
配偶者から十分な家賃を受け取れない場合に考えられる対処法は、以下の3つです。
- 実家に援助をお願いする
- 家賃が安い物件に引っ越す
- 公的な支援を受けるようにする
十分な家賃がないのですから、負担を減らしたり生活費を増やしたりするほか、方法はありません。
知っておくべきポイントもあるので、以下で解説します。
実家に援助をお願いする
十分な家賃を受け取れない場合には、実家からの援助に頼るのも一つの方法です。
しかし、実家からの援助を受けていた場合に「婚姻費用を請求できなくなるのでは?」と心配される方もいるかと思います。
この点において、確かに「生活費がかかってないのだから、婚姻費用は支払わない」と言われるケースもあるでしょう。
しかし、実家からの援助は、実家の好意に基づく贈与であると考えられ、生活費を負担していないからといって、婚姻費用が減額されることはありません。
家賃が安い物件に引っ越す
現在の住居の家賃負担が大きいのであれば、市営住宅のような家賃の安い物件に引っ越しましょう。
「別居中の市営住宅の申し込みは受け入れてもらえないのでは?」と心配される方もいるかと思いますが、1年以上に及ぶ長期間の別居の場合は、申し込み可としている自治体が多い傾向です。
たとえば、以下のように記載されている市営住宅もあります。
▲配偶者と離婚していない場合の申込み①離婚していない場合
戸籍上離婚しておらず、現に同居している夫婦の一方が別居のための住宅確保を目的に申込みをすることは、世帯の分離となりますので認められません。
②離婚はしていないが、長期間別居している場合
戸籍上離婚はしていないが、長期間別居している夫(妻)と子が申込みをした場合、申込期間の末日において、戸籍の附票などで1年以上別居の事実が確認できれば申込みできます。
③離婚協議中の場合
離婚の協議中(調停中、裁判中を含む)の場合、申し込みはできますが、市の指定する入居資格審査時に戸籍謄本で離婚の成立していることが確認できることが条件となります。なお、入居資格審査時に提出できない場合は失格となります。
最終的には自治体判断になりますが、選択肢の一つとして考えておきましょう。
公的な支援を受けるようにする
家賃の負担が大きい場合には、公的な支援の活用も検討してください。
たとえば、以下のような支援制度があります。
制度 | 内容 | 支給額 |
---|---|---|
児童手当 | 父母が離婚又は離婚協議中につき別居しており,生計を同じくしていない場合は,実際に子を監護養育している者に支給されます。 |
・0歳から3歳未満:(一律)月額1万5,000円 ・3歳から小学校修了前(第1子・第2子):月額1万円 ・3歳から小学校修了前(第3子以降):月額1万5,000円 ・中学生:(一律)月額1万円 |
児童扶養手当 | 18歳に達する日以後の3月31日までにある子又は20歳未満で一定の障害の状態にある子を監護養育する者が対象。 |
・児童1人のとき:月額4万3,160円 ・児童2人目:月額1万190円 ・児童3人目以降:1人につき月額6,110円 |
そのほか、生活保護も検討しておきましょう。
通常の婚姻費用に加えて家賃を請求する場合の注意点
通常の婚姻費用に加えて家賃を請求する場合には、以下の点に注意してください。
- 原則として家賃の分担を求めることはできない
- 標準的な家賃を超えるものは認められない可能性が高い
以下の注意点について、具体的に解説します。
原則として家賃の分担を求めることはできない
婚姻費用に加えて家賃の分担を求めることはできません。
適切な婚姻費用額を算定するプロセスの中で、夫婦双方の収入に応じた標準的な住居費がすでに考慮されているからです。
確かに、婚姻費用額に含まれる標準的な住居費と実際にかかる家賃とが一致しないことは起こり得ます。
しかし、この不一致をその都度修正するとなると、婚姻費用額を算定するプロセスが複雑になってしまいます。
迅速に適切な婚姻費用額を算定することを優先すると、現実の家賃額を考慮することは難しいのです。
さいごに|婚姻費用に関する悩みは弁護士に相談しよう
婚姻費用に関する悩みがあれば、一度弁護士まで相談しましょう。
弁護士に相談することで、算定票以上の生活費を請求できる可能性があります。
ただし、依頼する際は、離婚問題を得意としている弁護士を選んでください。
ベンナビにはさまざまな弁護士がいますので、ぜひご自身の悩みに寄り添ってくれる方を見つけてください。


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