養育費を強制執行で回収しよう!申立ての流れと条件まとめ
未払いの養育費を回収するには強制執行が効果的です。強制執行で一度給料を差し押さえてしまえば、その後は相手が会社を退職するまでは定期的に給与債権の一部が養育費として支払われます。
また、銀行の預金口座を差し押さえてしまえば、一気にまとまったお金を手に入れられる可能性があります。
強制執行と聞くと手続きを自分1人でできるのか不安になるかもしれません。そのような場合は、弁護士に依頼して強制執行手続きを代理で行ってもらうことができます。
この記事では図を使い分かりやすく手続きの流れや注意点を紹介していきますので、未納の養育費と将来分の養育費を請求する参考にしてください。
養育費の強制執行をする前の予備知識|強制執行でできる3つのこと
強制執行では主に3つのことができます。
給料を差し押さえること|差押え可能な金額は決まっている
養育費を支払わない相手が勤める会社に対して裁判所の給料の差押え命令書を送付することで、これを差し押さえることが可能です。
ただし、給与の場合は全額を差し押さえてしまうと相手の生活が成り立たなくなるので、法律で差押えできる金額が決まっています。
また、給与債権の差押えは一度行えば強制執行申立てを取り下げない限り効力が続きます。そのため、一回の差押えによって将来分の養育費まで回収の目処を立てることが可能となります。
では、給与について差押えが可能となる金額の範囲を見ていきましょう。なお、ここで言う給料は手取りの金額になっています。
差押えが可能な金額
給与債権は原則として給与額の4分の1まで差し押さえることが可能です。しかし、養育費の回収のために給与債権を差し押さえる場合はこの範囲が2分の1まで拡張されます。
そして、残り2分の1の金額が33万円を超える場合は、33万円を残し全額差し押さえすることが可能です。また給料が66万円を超える・超えないで差し押さえられる範囲が変わってきます。具体的には以下のようなイメージです。
【例】
給料が24万円(66万円を超えない)の場合、2分の1を差し押さえても残りの金額が33万円を超えません。なので2分の1の範囲の12万円のみ差押え可能です (図1)。
また、給料が80万円(66万円を超える)の場合、2分の1差し押さえると残りの金額が40万円となり33万円を超えます。33万円を超えた場合、33万円を残し全額差押えできますので、80万円から33万円を引いた47万円の差押えが可能です(図2)。
図1:給料が66万円以下の場合
図2:給料が66万円を超える場合
(参考:差押可能な給料の範囲|裁判所)
預金口座を差し押さえること
給料の他に預金口座を差し押さえることができます。預金債権は給与債権のように差押え禁止の範囲が特に定められていませんので、原則として差し押さえ時点で存在する預金全額を差し押さえることが可能です。
ただ、あくまで差し押さえ時点で存在する預金債権を差押えられるに過ぎませんので、差押え後に入金される将来預金を差し押さえることはできません(この場合は、当該入金があってから再度差押えの手続きを行う必要があります)。
もっとも、相手の預金口座を差し押さえるためには預金口座の開設先を把握しておく必要があります。しかし、債務者の預金口座の有無について、通常銀行は回答しません。
そのため、口座の有無を確認するためには実務的には弁護士に依頼するのが一般的です。弁護士は『弁護士会照会制度』という弁護士会を通じた情報収集手続きを利用することができます。
そして、債務名義を取得した段階で同制度を活用することで銀行から銀行口座の有無といった情報を得ることができるのです。
違約金や遅延損害金を定めること
養育費を相手から強制回収する方法は上記のような差押え以外にはありません。そのため、相手からの支払いが滞らないようにする工夫が必要です。
例えば、養育費の支払いについて合意するときに、支払いの期限と期限を過ぎた場合の違約金・遅延損害金について予め定めておきます。相手は支払いが徒過した場合にこれら追加の支払いが必要になるということで心理的圧迫を受け、自発的な支払いを促すことができます。
もし、このような合意を定めていた場合に相手が支払いを徒過すれば、当該違約金等を加算した金額で債務名義を取得し、これをもって強制執行手続きを履践することになります。
養育費を強制執行で獲得するための2つの条件
強制執行をする場合は、以下の3つの条件を満たす必要がありますので、まずは以下の条件を確認しましょう。
相手の住所、勤務先、預金開設先を把握していること
相手の住所、勤務先、預金口座開設先を把握しておかないことには、強制執行手続きによって債権を差し押さえることは困難です。
相手の住所、勤務先、預金口座開設先を探す方法として以下の2つがあります。
弁護士会照会制度を利用する
弁護士会照会制度とは、弁護士が円滑に職務を行うために、必要な書類や資料を公的機関や会社に開示・取り寄せなど請求できる制度です。
ただし、この制度はあくまで照会先に信義則上の回答義務が生じるに過ぎないものです。そのため、プライバシー等正当な理由があれば回答は拒否できます。
もっとも、通常、債務名義に基づく弁護士会照会に対してプライバシーは理由になりませんので、ほとんどの照会先はきちんと回答してくれます。
ただ、勤務先についてはそもそもどこに照会すればよいか不明という場合も往々にしてありますので、勤務先の特定は探偵を利用したほうが懸命でしょう。
【関連記事】弁護士会照会とは|弁護士会照会を活用する際に知っておくべきこと
探偵に依頼する
人を探すなら探偵への依頼もおすすめです。以前の住所や勤め先などできる限り情報を集めて依頼すると情報をより得やすいかもしれません。
また、探偵事務所から弁護士を紹介してもらえることもあります。もし探偵が弁護士を紹介してくれれば、探偵に依頼した情報を使ってそのまま強制執行の手続きを依頼したり、法律相談を行ったりすることも可能です。
【関連記事】
▶探偵の選び方|本当に良い探偵を見極める10のチェックリスト
▶人探しを探偵に依頼したときの料金相場と安くする方法まとめ
執行力のある債務名義があること
債務名義とは、以下のようなものになります。
- 確定判決(取り消せる余地のない判決です)
- 仮執行宣言付判決(『この判決は仮に執行することができる』とつけられた判決です)
- 和解調書
- 調停調書
- 公正証書(金銭債権について執行受諾文言のあるもの)
上記に該当する文書を持っている場合、別途訴訟を提起しなくてもこの債務名義をもって強制執行が可能です。
執行認諾文言が記載されている公正証書とは
執行認諾文言とは『取り決めを守らなかった場合強制執行されても構わない』という文言です。金銭債権について公正証書を作成しても執行受諾文言が明記されていないと、ただちに強制執行手続きを行うことはできません。
執行文を付与してもらう方法
確定判決、和解調書、調停調書はこれだけでは執行できず、強制執行に移るためには執行文を付与してもらう必要があります。
執行文付与の申立て先は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所または、調停・裁判を行った裁判所です。費用は、付与する文書1枚につき収入印紙300円が必要になります。
強制執行の方法|申立て方からお金を受け取るまでの流れ
ここでは強制執行の手続きの方法について紹介します。
強制執行の流れ
強制執行の流れは以下のようになっています。
1:裁判所に民事執行手続きを申し立てる
債務者(養育費を支払うべき人)の住所地を管轄する裁判所または、勤務先や差し押さえする金融機関を管轄する裁判所に必要書類をそろえ申立てを行います。提出する書類については『必要書類』で詳しく紹介します。
2:差押え命令
申立てを行うと、書類に不備がなければ裁判所は差押えの命令を発令します。同発令書は通常1週間前後で債務者に対して発送され、送達されます。
差押え命令はあくまで送達時点で効力を発しますので、送達されるタイミングは極めて重要です。給与やボーナスであれば会社による支払日より前に、預金であれば大口入金の直後に送達がされるよう、時期に狙いをつけて差押えを行うのが肝要です。
3:取り立てを行う
金銭債権の差押え命令発令書が発行された場合、差押え後1週間経った時点で、債権者は差押え先から直接取り立てを行うことが可能になります。
例えば、給与債権を差し押さえた場合、差押えの効力発生後、1週間経過した時点から債権者は会社に対して給与のうち差し押さえたものを直接自分に支払うよう求めることができます。
具体的には以下のような方法を取るのが一般的と思われます。
給料の差押えをした場合
会社に連絡を取り(電話・内容証明の送付など)、口座を指定し、直接振り込みを行ってもらいます。
預金口座を差し押さえした場合
金融機関は差し押さえた金額に相当する預金を凍結します。その後の取り立て方法は会社に対する取り立てと基本的に変わりません。
【参考】裁判所|民事執行手続
費用
強制執行には申立て手数料4,000円と以下のような予納郵便切手が必要になります。
予納郵便切手 |
||
500円 |
5枚 |
|
100円 |
1枚 |
|
82円 |
6枚 |
|
30円 |
5枚 |
|
10円 |
5枚 |
|
2円 |
5枚 |
|
1円 |
5枚 |
|
合計 |
3,307円 |
32枚 |
枚数や金額が細かくなりますので、注意しましょう。
必要書類
必要書類として以下の物が必要になります。
- 債権差押命令申立書:ダウンロードはこちら
- 債務名義または公正証書
- 債務名義(公正証書)の送達証明書(申立書/記入例)
- 強制執行をする前に、『取り決めを守らなかったので強制執行します。』という意味で、債権名義や公正証書送達します。その際に、送達した証明として受け取ることができます。
- 住民票等(債務名義と現在の住所が違う場合)
- 住民票は個人番号(マイナンバー)の記載のないもの
- 申立書の目録部分の写し
- 宛名付封筒:相手に送るようになります
他にも書類が必要になる場合(債務名義に基づく差押え|裁判所)がありますので、あらかじめ裁判所に確認することをおすすめします。
強制執行しても養育費がもらえなかったときは
強制執行しても金がなく教育費を支払ってもらえなかった場合は深刻です。いわゆる強制執行が『空振り』になったケースです。日本の法制度上、財産のない者からお金を取り立てる方法はありません。
したがって、預金債権について差し押さえてみたけれども預金がまったく無かったという場合には、養育費の回収はできません。この場合は、あきらめるか別の財産を探すしかありません。
養育費の強制執行の弁護士費用と依頼するメリット
このようにして未払い養育費に対して、強制執行を行うことも可能です。個人だけでもできないことはない手続きですが、どうしても手続きが心配な方や未払い養育費が累積して高額になっている方は弁護士への依頼も検討してみてください。
ある程度回収できる養育費が残っていれば費用倒れすることもほぼ無いでしょうし、相談だけでもかなり適切なアドバイスを貰えて明確にやるべきこともわかってくるでしょう。
養育費に関する弁護士費用相場
強制執行を弁護士に依頼した場合、主に以下の費用がかかります。
|
着手金 |
報酬金 |
|
300万円以下 |
4%~8% |
4%~16% |
300万円超、3,000万円以下 |
2.5%~5% |
2.5%~10% |
3,000万円超、3億円以下 |
1.5%~3% |
1.5%~6% |
3億円超 |
1%~2% |
1%~4% |
特に、着手金と報酬金に関しては、弁護士費用の多くの割合を占めていますので、依頼前にはしっかり確認しておきましょう。
強制執行の依頼では上記のように、『経済的利益(回収する養育費の額)に対して〇〇%』という形を取っている弁護士事務所が多いです。
例えば、養育費100万円を強制執行するのであれば、着手金5万円(5%)と報酬金15万円(15%)がかかるといった形ですね。
相談料|初回無料が多い
通常、弁護士は相談するだけでも費用がかかります。ただし、最近では初回無料相談を受けてくれる弁護士も増えていますので、一人で悩まずお気軽にご相談ください。
着手金|依頼時に発生する費用
着手金は、依頼時に発生する費用です。仮に強制執行が失敗したとしても発生するケースがありますので、依頼前にきちんと弁護士事務所と確認しておきましょう。
報酬金|成果に対して支払う費用
報酬金は、強制執行によって養育費が回収できた場合に追加で支払う費用です。
実費|実際にかかった費用
|
弁護士事務所によっては、上記の強制執行手続きをするにあたってかかった費用が別途請求されるケースがあります。場合によっては日当が数万円するケースもありますので、こちらも依頼前にしっかり確認しましょう。
弁護士に依頼するメリット
弁護士費用を払ってまでも依頼するメリットは、以下のとおりです。
最適な方法で解決を目指してくれる
養育費を回収するにあたって強制執行は非常に有効な方法ですが、支払い催促や任意交渉など他の方法はあります。場合によっては、他の方法でスムーズに解決するケースもあるでしょう。
また、差押えの対象も財産口座がよいのか給与がよいのかなど状況によります。状況に応じた最適な方法をしっかり考えてアドバイスしてくれますので、具体的に相談してみてください。
弁護士会照会制度で必要書類も集めやすい
上記でもお伝えした弁護士会照会制度を利用すれば、強制執行に必要な情報を集めやすくなります。差押え口座が分かっていない場合、ご自身だけで銀行口座を探し出すのは非現実的です。
まずは弁護士に相談して、弁護士なら強制執行に必要な情報を集められるのかを聞いてみても良いでしょう。
手続きを代理で行ってくれる
強制執行の方法は今回お伝えした通りですが、初めての人が自分だけでやろうとすると非常に大変です。弁護士に依頼すれば、このような手続きも代理で正確に行ってくれます。
交渉も代理で行ってくれる
養育費請求の1つとして元配偶者と交渉を行うこともありますし、支払えない元配偶者が減額交渉をしてくるケースもあります。顔も合わせたくないという方も多いでしょうが、弁護士が代理で交渉も行ってくれます。
また、交渉事にも慣れていますので、あなたに不利な条件にならないようにしっかり交渉してくれます。
まとめ
養育費が支払われないからといってあきらめる必要はありません。
相手が養育費を支払わない場合は「養育費請求調停|裁判所」を申し立てることも積極的に検討すべきでしょう。また、養育費や強制執行について分からないことがあれば離婚問題の解決に注力している弁護士に相談することをおすすめします。
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