離婚と別居はどちらが得なのか比較|離婚しないで別居するメリット・デメリットも解説
夫婦関係に悩み、「このまま一緒にいるのは難しい…」と感じたとき、多くの人が離婚か、別居かで迷います。
離婚と別居には親権やお金の面で大きな法的な違いがあり、安易に決めると後で後悔しかねません。
また、別居にはメリットだけでなくデメリットや注意点も存在するので、どちらが得か慎重に考えましょう。
この記事では、離婚と別居の法的な違いから、それぞれのメリット・デメリットなどを解説します。
自身の状況と照らし合わせながら、後悔のない選択をするための判断材料にしてください。
離婚と別居のどちらが得かは状況によって異なる
離婚と別居のどちらが得かは、夫婦関係や子どもの有無、経済状況など、どのような状況に置かれているかで異なります。
すぐにでも離婚したいと考えていても、関係修復の可能性を探りたい場合や、事前に離婚後の生活基盤を整えたい場合は、一旦別居する方がよいことがあります。
一方で、夫婦関係が完全に破綻しており、精神的な区切りをつけて新しい人生を早く始めたいと考えるのであれば、離婚を選択する方がよいでしょう。
両者の法的な違いや、自身の状況におけるメリット・デメリットを正しく理解し、客観的に判断することが、後悔のない選択をする上で重要です。
どちらの選択が自身にとって「得」となるかは、何を重視するかによって変わるため、一概に断定はできません。
離婚と別居の法的な違い6つ
離婚と別居には法的な違いがあります。
夫婦間のトラブルで離婚や別居を検討するときは、離婚と別居の違いをよく理解しておきましょう。
未成年の子どもの親権
| 離婚 | 原則、夫婦のどちらか一方は親権者になる必要がある |
| 別居 | 原則として父母双方に親権がある状態が続く |
夫婦が離婚する際には、原則として父母のどちらか一方が親権者になる(単独親権)必要があります。
相手が親権を獲得すると、親権を持たない親は子どもと触れ合う機会が面会交流に限定されるのが一般的です。
一方で、離婚せずに別居をしている状態は、婚姻関係が継続しているということです。
別居期間中は、子どもを引き取っているかどうかに関わらず、父母の両方が親権者になります。
2026年4月の民法改正で導入される「共同親権制度」とは
離婚後も父母双方が子どもの親権を持つ「共同親権制度」が、2026年4月1日に施行されます。
現行法では、父母のどちらか一方が子どもの親権を持つ「単独親権」のみです。
4月からの法改正により、離婚後は単独親権と共同親権のどちらを選択するか、父母で話し合って決めることが可能になります。
ただし、以下に該当する場合は父母のどちらか一方が単独で親権を持つことが可能です。
- 一方が親権をおこなうことができないとき(喪失・行方不明など)
- 子どもの利益のために、急迫の事情があるとき
- 監護および教育に関する日常の行為で、親権を行使するとき
- 話し合いによって合意できず、家庭裁判所が認めるとき
扶養義務や婚姻費用の支払い義務
| 離婚 | ・相互扶助や婚姻費用の分担義務はなくなり、配偶者を扶養する必要がない ・子どもの養育費は負担する必要がある |
| 別居 | ・扶養義務や婚姻費用の支払い義務がある ・子どもの養育費も負担する必要がある |
夫婦にはお互いを助け合う相互扶助義務や、生活費となる婚姻費用の分担義務があります。
離婚によって婚姻関係が解消されると、相互扶助や婚姻費用の分担義務はなくなるため、配偶者を扶養する必要がありません。
一方、別居の場合は婚姻関係が続いているので、扶養義務や婚姻費用の支払い義務が生じます。原則、収入の少ない側は多い側へ、生活費の支払いを請求することが可能です。
また、夫婦が離婚しても子どもの扶養義務は残るため、養育費は双方で負担しなければなりません。
ひとり親控除などの支援制度
| 離婚 | ひとり親控除や、ひとり親家庭等医療費助成制度などの支援制度を利用できる |
| 別居 | ・婚姻関係が続いている状態であり、原則支援制度の対象外 ・条件によっては、児童扶養手当などの一部制度は利用できる |
離婚後に子どもの親権者となった場合、所得税や住民税が軽減される「ひとり親控除」や、自治体が医療費の一部を助成する「ひとり親家庭等医療費助成制度」といった支援を利用できます。
しかし、別居中は法律上の婚姻関係が続いているため、原則としてこれらの制度の対象にはなりません。
ただし、自治体によっては児童扶養手当など一部の手当について、DVによる避難や1年以上の別居といった特定の条件下で、離婚していなくても受給できる場合があります。
扶養手当や家族手当
| 離婚 | 支給されなくなる可能性がある |
| 別居 | 引き続き支給される可能性が高い |
勤め先から扶養手当や家族手当を受け取っている場合、離婚すると支給されなくなる場合があります。
離婚せず別居をしている状態では、婚姻関係が継続しているため、扶養手当や家族手当が引き続き支給される可能性が高いです。
各種手当に関する規定は企業によって異なるので、離婚や別居をするときは就業規則を確認しておきましょう。
税法上や社会保険の扶養控除
| 離婚 | ・配偶者の扶養から外れる ・扶養控除や配偶者控除が適用されない |
| 別居 | ・生計を一つにしていると判断されれば、扶養に加入し続けることが可能 ・扶養控除を受け続けられる場合もある |
離婚せずに別居していて、生計を一つにしていると判断される場合、相手の扶養に入ったままになったり、税法上の扶養控除を受け続けられたりする場合もあります。
しかし、離婚すると家族ではなくなるため、扶養に入り続けたり、扶養控除を受け続けたりすることはできません。
妻が親権者となって離婚した場合、原則として子どもも父親の扶養から外れます。
妻と子どもは、妻の勤務先の社会保険か、国民健康保険に加入しなければなりません。
また、離婚すると配偶者控除や扶養控除が使えなくなるため、所得税や住民税の負担が増え、手取り額が減少する場合があります。
法定相続人の地位
| 離婚 | ・相続権が失われる ・相手の財産を受け取れない |
| 別居 | ・相続権は維持される ・相手の財産を受け取ることが可能 |
婚姻関係にある夫婦の場合、配偶者は必ず法定相続人になるため、夫や妻の財産を相続できます。
しかし、離婚すると相続権が失われ、お互いが法定相続人になれません。法律上は第三者の扱いになるため、相手の財産を相続できなくなります。
別居の場合は、何十年にわたって別居している状態が続いていても、離婚届を提出していなければ、相続権は維持されます。
なお、子どもの相続権は親の離婚に影響されません。法的な親子関係がある限り、父母のどちらが亡くなっても、子どもは第一順位の法定相続人になります。
そもそも別居とは?
そもそも別居とは、単に夫婦が別々の家で暮らしている状態を指すわけではありません。
夫婦が別々の家に住んでいて共同生活を送っている実態がなく、協力し扶助しあうという関係性が失われている状態を「別居」と呼びます。
どのような状態を別居と定義するのか、具体的な判断基準や離婚に必要な別居期間などをご紹介します。
単身赴任や家庭内別居は別居にはあたらない
夫婦のうちどちらかが赴任先に住む「単身赴任」は、夫婦関係が良好で、協力関係が続いている状態であるため、別居にはあたりません。
しかし単身赴任中に、夫婦仲が険悪になり、協力・扶助関係も失われた場合は、別居とみなされることもあります。
また、同居していても夫婦関係が破綻した「家庭内別居」も、基本的には別居に該当しません。しかし、単身赴任同様、状況次第では法的な別居として認められる場合があります。
法的な別居の判断基準
法的な別居と認められるかどうかは、客観的に見て夫婦関係を続ける意思と実態があるかどうかで決まります。
形式的に住民票を移したかどうかよりも、実質的に夫婦として機能しているかが重要です。
裁判所は、さまざまな事情を総合的に考慮して、別居かどうかを判断します。具体的には、以下のような点を考慮することが多いです。
- 生活費(婚姻費用)の送金があるか
- 定期的に連絡を取り合ったり、会ったりしているか
- 夫婦としての性的関係があるか
- 家事や育児などで協力している実態があるか
例えば、夫婦が別々の家に住んでいても、頻繁に週末を共に過ごし、家計も一つであるならば、法的な別居とは認められない可能性が高いです。
逆に、同じ家に住んでいてもこれらの協力関係が一切なければ、家庭内別居として婚姻関係の破綻が認められることがあります。
離婚するまでに必要な別居期間
夫婦の話し合いで離婚に合意する協議離婚や、家庭裁判所の調停で合意を目指す調停離婚の場合、別居期間の長さが問われることはありません。
しかし、話し合いがまとまらず裁判で離婚を求める裁判離婚の場合は、一般的に3年~5年の別居期間が離婚をするための目安です。
長期間の別居は、夫婦関係が修復不可能なほどに破綻していることを示す客観的な証拠として重視される傾向があります。
ただし有責配偶者から離婚を請求された場合や、結婚して間もない場合は例外です。
【例外1】有責配偶者から離婚請求された
不倫やDVなど、離婚の原因を自ら作った側を有責配偶者と呼びます。
有責配偶者から離婚を請求する場合、裁判所に離婚を認めてもらうためには、10年~20年もの別居期間が必要となるケースが多いです。
裁判所は、離婚原因を作った張本人からの離婚請求に対しては、要件を総合的に考慮して厳格な姿勢で判断します。
- 夫婦の年齢や同居期間と比較して、別居期間が十分に長いこと
- 経済的・社会的に自立していない(未成熟な)子どもがいないこと
- 離婚によって、相手が精神的、社会的、経済的に厳しい状況に陥らないこと など
例えば、不倫が原因で別居を開始した夫が、別居から5年で離婚を求めても、裁判で認められるのは難しいでしょう。
しかし、別居期間が10年に及び、子どもも成人しているといった事情があれば、離婚が認められる可能性が出てきます。
【例外2】結婚してから間もない
婚姻期間(同居していた期間)が極端に短い夫婦の場合、離婚が認められるために必要な別居期間も短くなることが多いです。
3年に満たない別居期間であっても、離婚が認められるケースは少なくありません。
裁判所は離婚を判断する際に「同居期間と別居期間の対比」を一つの重要な要素として考慮します。
同居していた期間よりも別居している期間の方が長くなれば、それだけ夫婦としての共同生活の実態が乏しいと判断されやすいです。
例えば結婚して半年で同居を解消して1年半別居した場合、裁判所は「すでに婚姻関係は破綻している」として、離婚を認める可能性が高まります。
夫婦が離婚せず別居するメリット6選
夫婦が離婚せずに別居を選択するメリットは、主に6つあります。
メリットの内容をそれぞれ紹介します。
DVやモラハラの被害を受けずに済む
配偶者のDVやモラハラなどによって、苦しい思いをしている場合は、別居を選択してもよいでしょう。
別居期間中は、物理的に配偶者と距離を確保できるため、DVやモラハラの被害を受けることはありません。
暴力や暴言を受け続けると肉体的・精神的なダメージが蓄積します。
場合によっては、重大な後遺症や精神障害が残る可能性も考えられます。
相手に無断で別居し、報復される恐れがあるときは、住所を告げずに転居してください。
ウィークリーマンションなどは、敷金や礼金がかからず転居でき、生活家電も揃っているので、急いで別居したいときはおすすめです。
精神的ストレスから解放される
性格の不一致や価値観の違いがある場合、別居によってストレスから解放される可能性があります。
金銭感覚や育児の考え方などに大きな違いがあると、一緒にいるだけでストレスを感じてしまうケースが少なくありません。
ストレスが大きくなると仕事に集中できない、または子どもに強く当たってしまうなど、多方面にさまざまな悪影響が出てしまうでしょう。
離婚するほどではなくても、気持ちを整理するためにも相手と距離を置きたい場合は、別居を検討してみるのも一つの方法です。
パートナーの扶養に入ったままでいられる
離婚しないで別居した場合でも、一定の条件を満たせば、引き続き配偶者の社会保険の扶養に入り続けられる場合があります。
扶養を外さない限り、自分で社会保険料を支払う必要はありません。
相手の扶養に入っている場合、国民年金の第3号被保険者となり、保険料を自己負担しなくても国民年金の受給資格を継続可能です。
また扶養している側の配偶者も、配偶者控除や配偶者特別控除などによって、所得税や住民税などの負担が軽くなります。
社会保険の扶養に入り続けるための条件は、配偶者の勤務先の健康保険組合によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
別居中でも婚姻費用を受け取れる
別居中で収入が少ない場合でも、法律上の婚姻関係が続く限り、配偶者から経済的な支援を受けながら生活を送ることが可能です。
婚姻費用は、結婚生活を維持するために必要な費用全般を指します。
- 住居に関する費用(家賃、住宅ローンなど)
- 食費
- 水道光熱費
- 衣服代
- 医療費
- 交通費
- 子どもの養育費(学費、習い事の月謝など)
- 交際費など
夫婦にはお互いの生活レベルが同等になるように助け合う義務があります。
別居した場合でも、収入の多い方が少ない方に対して生活費の不足分を負担しなければなりません。
なお婚姻費用の分担額は、夫婦の収入や子どもの有無など、さまざまな事情を考慮して決められます。
離婚するかどうかを冷静に判断できる
別居してお互いに距離を置くことで、離婚すべきかどうかを冷静に考える時間を確保できます。
感情的な対立から一旦離れ、相手への気持ちや自分自身の将来について、落ち着いて見つめ直す期間になります。
離婚問題は裁判所も慎重に扱う事案です。訴訟で離婚を争う場合でも、判決の前に和解案を提示されるケースも少なくありません。
別居期間中は、離婚をした場合と別居を継続した場合の双方の状況を具体的に整理することが重要です。以下のポイントを重視して、現実的な視点から離婚と別居のどちらが得かを検討するとよいでしょう。
- 離婚後の生活設計(収入、住居、生活費など)
- 子どもの親権をどちらが持つか
- 養育費の金額や支払い方法
- 面会交流の頻度や方法
- 法律上の地位の変化(遺産相続権など)
離婚裁判の際に離婚しやすくなる可能性がある
裁判によって離婚する際、長期間の別居という事実は、夫婦関係が破綻していることを示す重要な要素とみなされ、離婚が認められやすくなる場合があります。
裁判で離婚を争う場合、基本的には不貞行為やDVなどの「法定離婚事由」に該当するかが主な焦点となります。
単に別居しているという事実だけでは、すぐに離婚が認められるわけではありません。
しかし、夫婦関係が破綻し「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかどうかを判断する上で、別居期間の長さは重視されます。
別居期間が3年~5年程度になると、裁判所も夫婦関係の修復が困難だと認められやすくなり、結果として裁判がスムーズに進む可能性があります。
離婚裁判を短期間で終結させたいときは、長期的な別居も検討してください。
夫婦が離婚せずに別居するデメリット5選
離婚しないで別居するときは、デメリットも発生することを理解しておきましょう。
主なデメリット5つをそれぞれ紹介します。
住居や仕事の確保が難しい場合がある
例えば、専業主婦が家を出て別居する場合、生活拠点となる住居の確保と、生活費を稼ぐための仕事の確保という2点で苦労する可能性があります。
収入が十分でない未就労の場合は、家賃の滞納リスクが高いと判断され、賃貸借契約を結べないことも考えられます。
自分で保証人を探したり、保証会社を設定したりすることで、契約を結べる場合もあるでしょう。
しかし、仕事が見つからず安定した収入源がなければ、家賃の支払いが滞り、生活が立ち行かなくなるリスクが常に伴います。
生活費や養育費が不足する場合がある
別居によって、生活費や養育費の支払いが滞るリスクが考えられます。
別居中の場合でも、法律上の婚姻関係が続く限り、生活費や養育費を分担して支え合う義務が存在します。
しかし、特に合意がないまま感情的に別居した場合など、相手の意向次第で送金が一方的に停止されてしまうケースは少なくありません。
裁判所に支払いを求める調停を申し立て、相手と和解できたとしても、生活費などの支払いが再開されるのは数ヵ月後になる可能性が高いです。
支払いが滞っている期間も必要な費用を自分でまかなえるよう、別居前にはある程度の資金を自分で準備しておく必要があります。
離婚せずに別居するときは、婚姻費用や養育費を確実に受け取れるよう、相手と協議し、内容を書面に残しておくことが重要です。
パートナーとの関係修復が難しくなる場合がある
別居によってお互いの気持ちが離れてしまうと、相手との関係修復へのハードルが格段に高くなるデメリットがあります。
日常的に顔を合わせなくなることで、コミュニケーションの機会が激減するため、誤解が解けずに残ったり、相手への不満や怒りが固定化したりする可能性が考えられます。
別居期間はプラスの感情を共有する機会が失われ、夫婦としての絆が希薄になりがちです。
また、別居生活が長引くにつれて、それぞれが相手のいない生活に順応していきます。
生活が経済的に自立している場合、「一人でやっていける」「むしろ一人のほうが気楽」と感じるようになり、関係修復の意欲が低下することも少なくありません。
関係修復が十分に可能でも、別居をきっかけに離婚する夫婦もいるため、相手と距離を置くかどうか慎重に考えることが重要です。
パートナーが財産を隠す場合もあり得る
相手による財産の隠匿(財産隠し)のリスクも、別居におけるデメリットの一つです。
別居した場合、お互いの資産状況が直接見えなくなるため、相手が管理している財産を意図的に隠したり、勝手に使ってしまったりする可能性が高まります。
夫婦関係が冷え切っていると、「相手にお金を渡したくない」と感じるようになり、財産隠しに及ぶことは十分に考えられるでしょう。
財産が隠されることで、離婚時の財産分与が少なくなったり、別居中の婚姻費用が適正額よりも低くなるというリスクも生じます。
一度隠された財産をあとから探し出し、法的に証明するのは非常に困難な作業です。
離婚や慰謝料を求められる可能性がある
正当な理由なく一方的に別居した場合、同居義務違反とみなされ、法的に不利な立場に置かれるリスクがあるため注意が必要です。
夫婦は互いに協力し扶助する義務の一環として、特別な事情がない限り同居する義務があります。
合理性のない理由で別居すると、夫婦関係をわざと破綻させる行為は「悪意の遺棄」と判断され、配偶者から離婚や慰謝料を求められる可能性が高いです。
悪意の遺棄は、配偶者に精神的苦痛を与えたとして、慰謝料請求の対象になり得ます。状況によっては、配偶者に対して数十万円や数百万円を支払わなければなりません。
また、自分には離婚する意思がなくても、配偶者から離婚を請求されると、認められやすくなります。
一度相手が離婚の意思を固めてしまえば、そこから関係を修復するのは極めて困難になるでしょう。
不貞行為などの証拠を集めにくくなる
別居して家を離れると、配偶者の不倫や浮気の証拠を集めにくくなるというデメリットがあります。
不貞行為の証拠は、相手の財布やスマートフォン、車などに残っていることが多く、別居すると収集が難しくなるでしょう。不貞行為の証拠には以下のようなものが挙げられます。
- メールやLINE、SNSなどのメッセージ
- ホテルやプレゼントの購入を示す領収書やクレジットカード明細
- スマートフォンの通話履歴や写真・動画
- カーナビの走行履歴やドライブレコーダーの映像
また、相手に「何かを探られているのではないか」と警戒させてしまうと、メッセージ履歴を削除したり、用心深くなったりするなど、証拠を隠滅されるリスクが格段に高まります。
不貞行為は慰謝料請求の対象になるため、浮気や不倫などの証拠は同居中に集めておいたほうがよいでしょう。
離婚と別居はどちらを選択した方が得か?状況別に解説する2つのケース
離婚と別居はどちらを選択する方が得なのかは、状況によって異なります。
離婚が得になるケースと、別居が得になるケースをそれぞれ紹介します。
離婚よりも別居の方が得になるケース

すぐに離婚という大きな決断を下すのが難しい状況では、まず別居を選択する方がよい場合があります。
特に、以下のようなケースでは、一度距離を置くことが望ましいと言えるでしょう。
- 相手からのDVやモラハラから心身の安全を確保したい
- 関係修復の可能性を冷静に考える期間がほしい
- 離婚後の経済的自立や住居など準備が必要である
- 相手が離婚を拒否している
- 子どもへの影響を最小限にしたい
配偶者と物理的に距離を置くことは、感情的な対立を避け、自分自身の置かれた状況や今後の夫婦関係について冷静に見つめ直すための貴重な時間となります。
何よりもまず、自身の安全を確保するという観点からも、別居は重要な選択肢の一つです。
別居よりも離婚の方が得になるケース

夫婦関係の修復がすでに不可能であり、法的な関係を完全に断ち切って新しい人生をすぐにでもスタートさせたい場合は、別居ではなく離婚を選択する方が賢明です。
離婚は、精神的にも法的にも明確な区切りをつけることができます。
特に、以下のような状況に当てはまる場合は、離婚によって得られるメリットが大きいでしょう。
- 関係が完全に破綻しており、修復の意思がない
- 夫婦関係における精神的な苦痛から解放されたい
- 離婚後の生活に見通しが立っている
- 新しいパートナーとの再婚を考えている
- 相手による財産の使い込みや隠匿のリスクが高い
別居状態を続けることは、問題の先延ばしに過ぎず、かえって精神的な負担を長引かせることになりかねません。
新しい人生へ踏み出す決意が固まっている場合は、離婚という明確な決断を下すことこそが、賢明で前向きな選択といえます。
離婚よりも別居を選択した場合の注意点5つ
離婚ではなく別居を選択する場合、その後の離婚協議や自身の立場を不利にしないために、注意すべき点がいくつかあります。
別居に踏み切る前に知っておくべき法的な注意点を5つ解説します。
一方的に別居しない
正当な理由がないまま、配偶者の合意を得ずに一方的に別居を開始すると、悪意の遺棄とみなされ、その後の離婚協議や裁判で不利になる恐れがあります。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力・扶助義務を果たさないことです。
裁判で悪意の遺棄が認められると、相手から慰謝料を請求される原因になる可能性もあります。
ただし、相手からのDVやモラハラが原因で、身の安全を確保するために家を出る場合は、正当な理由があるため、悪意の遺棄には該当しません。
緊急の場合を除き、別居を始める前には、まず配偶者に別居したい意思とその理由を伝え、話し合いをすることが望ましいです。
直接の話し合いが難しい状況であれば、弁護士などの第三者を介して協議を進めることを検討しましょう。
無意味な別居期間を長引かせない
別居はあくまで一時的な手段と考えるべきであり、特に理由もなく別居期間を長引かせることは、大きなリスクが伴います。
長い別居期間は、夫婦関係がすでに破綻しているという法的な証拠になり得るため、相手の離婚請求が認められやすいです。
たとえば、10年間も別居を続けている場合は、自身に離婚の意思がなくても調停や裁判でも夫婦関係の修復見込みなしと判断される場合があります。
また、離婚が成立することにより、別居中に受け取っていた生活費(婚姻費用)の支払いが止まります。
収入の大部分を婚姻費用に頼っている場合、離婚によって経済的な基盤を失い、生活設計そのものが成り立たなくなるという事態に陥りかねません。
別居に踏み切るのであれば、目的と期間を明確にしておくことが重要です。
別居中に不倫しない
別居中であっても、離婚が成立するまでは法律上の婚姻関係が続いています。
別居期間中に異性と肉体関係を持つことは、原則として不貞行為とみなされます。
離婚原因をつくった有責配偶者として、極めて不利な立場に置かれる可能性が高いです。
婚姻関係を破綻させた原因を作った有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。
自分が離婚したくても、相手が同意しない限り、法的に関係を解消することが非常に困難になります。
また、相手が調停や離婚裁判を起こした場合、相手の希望に沿った不利な条件をのまざるを得なくなったり、不貞行為に対する高額な慰謝料を命じられたりする可能性が高まります。
判決によっては高額な慰謝料を支払うケースもあるので、離婚が正式に成立するまでは、軽率な異性との交遊は厳に慎むべきです。
強引に子どもを連れ去らない
たとえ親であっても、相手の同意なく、一方的に子どもを強引に連れ出す行為は、違法な子の連れ去りと見なされかねない、極めてリスクの高い行動です。
特に、親権に関する法的な手続きが進んでいる最中に子どもを強引に連れ去ってしまうと、手続きを無視して、司法の判断を軽視していると受け取られる恐れがあります。
また、強引な連れ去りは、子どもの生活環境を無理やり変え、精神的な安定を著しく害する行為にほかなりません。
親権争いにおいて「親権者として不適格」という、不利な評価を受ける要因となる可能性があるため、強引な連れ去りはしないように注意が必要です。
婚姻費用の支払いを勝手に止めない
別居中であっても、法律上の婚姻関係が続いている限り、夫婦は互いに生活を助け合う義務が存在します。
収入の多い方は少ない方に対し、生活費として婚姻費用を支払う必要があります。
別居の原因がどちらにあるかにかかわらず発生するため、一方的な判断で支払いを停止することはできません。
婚姻費用の支払いを勝手に打ち切った場合、相手方から家庭裁判所に婚姻費用分担請求の調停や審判を申し立てられることが考えられます。
過去に支払われなかった分まで遡って請求されることもあり、最終的には給与の差し押さえといった強制執行の対象となるリスクもあります。
経済的な事情で支払いが困難になった場合でも、勝手に止めるのではなく、まずは相手と減額について話し合うべきです。
別居の際に準備しておくべきこと5点
別居生活を問題なく送るためには、事前の準備を万端にしておく必要があります。
別居の前に準備しておいた方がよいことを5つ紹介します。
住居と仕事を確保しておく
夫婦の関係性が悪化した場合、感情的な勢いで家を飛び出す前に、別居後の住居と仕事を確保しておいたほうがよいでしょう。
別居中は収入の多い方は少ない方の婚姻費用を負担する必要がありますが、「夫婦だから婚姻費用をもらえる」という期待に頼るのは非常に危険です。
夫婦関係が悪化している状況では、相手の感情一つで送金が突然ストップし、生活が即座に立ち行かなくなるリスクが付きまといます。
安定した収入がなければ部屋を借りる審査に通るのは難しい上、条件に合った職をすぐに見つけることも容易ではありません。
経済的に自立できる収入が見込めないときは、住居と仕事の見通しなどを確保し、生活基盤の安定を考えておいた方がよいでしょう。
共有財産を正確に把握しておく
別居するときは、夫婦の共有財産を正確に把握しておくことが重要です。
婚姻生活中に築いた財産は、たとえどちらか一方の名義であっても夫婦共有の財産になるため、将来的に離婚する際、財産分与の対象になります。
相手が取得した財産を把握していなかった場合、離婚時に適正な預金や株式がもらえない場合もあるので、同居中に財産を調べておいたほうがよいでしょう。
具体的には、以下のようなもののコピーや写真を撮っておくと、手続きの際に有力な証拠となります。
- 預金通帳(銀行名、支店名、口座番号がわかるページ)
- 生命保険や学資保険などの保険証券
- 株式や投資信託の取引残高報告書
- 不動産の権利証や固定資産税の納税通知書
- 自動車の車検証
- 給与明細や源泉徴収票
不貞行為やDVなどの証拠を集めておく
相手と別居するときは、事前に可能な限り不貞行為やDV、モラハラなどの証拠を集めておくことが重要です。
別居後は証拠を確保しにくいため、相手に有責行為があっても慰謝料を請求できなくなる可能性があります。
具体的には、以下のような証拠を同居している間に集めておくことが望ましいです。
| 不貞行為の証拠 | ・肉体関係を示すメールやLINE、SNSのやりとり ・ホテルやプレゼントの購入を示す領収書やクレジットカード明細 ・二人で写っている写真 など |
| DVやモラハラの証拠 | ・暴言や人格を否定する言葉が記録された音声データ ・暴行の様子を映した映像 ・「いつ、どこで、何をされ(言われ)、どう感じたか」を具体的に記した日記 ・医師の診断書 ・怪我の様子の写真 ・警察や配偶者暴力相談支援センターなどへの相談記録 など |
面会交流のルールを決めておく
子どものいる夫婦が別居する場合は、子どもの心身の健全な成長のためにも、面会交流のルールをあらかじめ決めておくことが大切です。
別居しても親子である関係に変わりはなく、子どもがどちらの親からも愛されていると感じられることは、精神的な安定に不可欠です。
しかし、明確なルールがないまま面会交流を行うと、かえって子どもを混乱させてしまう可能性もあります。
トラブルを防ぎ、子どもが安心してもう一方の親と会える環境を整えるためにも、具体的なルールを話し合っておくことが望ましいでしょう。
- 面会の頻度(例:月に1回、隔週1回など)
- 面会の日時や時間(例:毎月第2土曜日の10時から17時まで)
- 面会の場所や過ごし方
- 子どもの受け渡し方法
- 宿泊の可否や、誕生日・学校行事などの際の対応
離婚問題に詳しい弁護士に相談をする
別居を決意したら、行動を起こす前にまず離婚問題に詳しい弁護士へ相談しましょう。
別居後の離婚協議を有利に進めるには、事前の準備が極めて重要です。
財産分与や慰謝料のために確保すべき証拠や、相手に知られないように取るべき行動など、必要な準備について、具体的なアドバイスを受けられます。
特に、別居中の生活費である婚姻費用を確実に請求するには、相手の収入を示す資料の確保などが鍵となります。
確実に適正な婚姻費用を獲得するためにも、専門家の助言を得て冷静に別居の準備を進めることが重要です。
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離婚と別居に関するよくある質問5選
離婚と別居に関するよく寄せられる疑問に回答します。
離婚と別居のどちらが得なのかについて悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
Q1:熟年離婚の場合、別居と離婚どちらが得ですか?
熟年離婚の場合、別居と離婚のどちらが得か一概には言えません。
婚姻期間が長いため、若い世代よりも財産分与や退職金、年金分割などの判断が難しくなりやすいです。
特に、配偶者の相続権は別居中なら維持されますが、離婚すると失われます。
老後の生活設計も含め、自身の状況でどちらが最善か、弁護士など専門家と相談して慎重に判断することが不可欠です。
Q2:別居中に相手が離婚に応じてくれない場合はどうすればいいですか?
別居中に相手が離婚に応じてくれない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てるのが一般的です。
調停は、調停委員を介して話し合う手続きで、直接顔を合わせる必要はありません。
それでも合意に至らなければ、離婚裁判に移行します。
裁判では、長期間の別居が夫婦関係の破綻を示す重要な証拠とみなされます。
まずは弁護士に相談し、自身の状況に合った法的手続きを計画的に進めることが重要です。
Q3:別居中に配偶者の住民票を閲覧できますか?
別居中でも、配偶者の住民票は取得可能です。
ただし、世帯が別のため第三者としての請求となり、正当な理由を具体的に示す必要があります。
配偶者の住民票の閲覧・取得が認められやすい正当な理由は、主に以下のとおりです。
- 婚姻費用分担請求調停を申し立てるため
- 子の監護に関する手続き(子の引き渡し請求など)のため
- 離婚調停を申し立てるため など
また、離婚調停や婚姻費用分担請求など、家庭裁判所への申し立てで相手の住所が必要となるケースは、正当な理由として認められやすいです。
まとめ | 離婚と別居で迷ったら弁護士へ相談しよう
離婚と別居のどちらが得かは、自身の状況や重視する内容によって異なります。
- 相手からのDVやモラハラから心身の安全を確保したい
- 関係修復の可能性を冷静に考える期間がほしい
- 離婚後の経済的自立や住居など準備が必要である
- 相手が離婚を拒否している
- 子どもへの影響を最小限にしたい
- 関係が完全に破綻しており、修復の意思がない
- 夫婦関係における精神的な苦痛から解放されたい
- 離婚後の生活に見通しが立っている
- 新しいパートナーとの再婚を考えている
- 相手による財産の使い込みや隠匿のリスクが高い
別居は離婚後の生活基盤を整えるための準備期間として有効な選択肢ですが、無計画に長引かせると相手からの離婚請求を招くリスクも伴います。
一方、関係が完全に破綻している場合は、別居という中途半端な状態を続けるよりも、離婚して法的な関係を完全に清算し、新しい人生へ踏み出す方が賢明な選択といえるでしょう。
離婚と別居のどちらを選択するべきか迷っている場合は、弁護士など専門家へ相談してみてください。
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