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離婚後、父母が共同で親権をもつことを共同親権といいます。
2024年現在の日本では、離婚したら父母のいずれかしか親権をもつことができません。
しかし共同親権が導入されれば、父母の双方が親権をもてるようになるのです。
子どもの親権は、離婚時の争点のひとつです。
共同親権を行使すれば離婚時の争いを避けられるかもしれません。
では共同親権が導入されたら、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
本記事では、日本でも導入されるといわれている共同親権について詳しく解説します。
離婚後は、父母のいずれかが子どもの親権をもつことになります。
これを単独親権といいます。
ここからは、共同親権とは何なのかや、単独親権との具体的な違いなどを解説します。
親権とは、未成年の子どもが社会人になるまで養育する親の権利・義務のことです。
現在の日本では、婚姻期間中であれば父母の双方に親権がありますが、離婚後は父母のいずれかが親権を持つことになります。
親権は、「身上監護権」と「財産管理権」の2つで構成されています。
「身上監護権」と「財産管理権」の具体的な内容については、以下の表のとおりです。
身上監護権 | 子どもの監督保護・養育 | |
---|---|---|
居所指定権 | 子どもが住む場所を指定する権利 | |
職業許可権 | 職業に就くことを許可する権利 | |
身分上の 行為の代理権 | 認知の訴え、15歳未満の子どもの氏の変更、相続の承認・放棄など身分行為を子どもの代わりにおこなう権利 | |
財産管理権 | 子どもの財産を管理する 財産に関わる法律行為を代わりにおこなう |
親権を持つ親は日常的に子どもの生活を管理できます。
親権がない親に比べて子どもと関わる権利を多く有しているため、父母のどちらを親権者と定めるのかによって子どもの将来が大きく変わる可能性もあるのです。
とはいえ、親権者ではないからといって、子どもとの関わりが一切なくなることはありません。
離婚して子どもと離れて暮らすことになった親は、子どもと面会交流する権利があります。
しかし、わが子の健全な養育のためにも自分が親権者となって子どもの育児に関わりたいと主張する親は少なくないため、離婚時の親権は大きな争点となることもあるのです。
共同親権とは、父母の両方が親権をもつ制度のことです。
共同親権が導入されると、離婚後も父母の双方で子どもの監護・養育ができます。
子どものしつけや居住地、財産の管理など、子どもの生活に関わる事項の決定権が父母双方に平等に与えられるのです。
子どもの住居や進学先などを父母で話し合って決めることになりますが、子どもの食事や習い事などに関しては、同居している片方の親だけで決めても問題ありません。
教育方針などで父母の意見が対立した場合は、家庭裁判所がどちらの意見を取り入れるのが妥当なのか判断することになります。
なお、急な子どもの入院や、進学先に入学金を支払う期限が迫っているなどの場合、家庭裁判所の判断を待っていると子どもの利益が損なわれてしまうため、このような「急迫の事情」があるときは、例外的に片方の親のみの意見で決められます。
離婚の理由が配偶者のDVや子どもへの虐待であれば、共同で親権を行使すると子どもに危険がおよぶ可能性があるため、単独親権を維持することも可能です。
ただし、単独親権を維持するには配偶者のDVや虐待の事実を家庭裁判所に認めてもらう必要があります。
共同親権と単独親権の違いは、「子育ての責任を父母の双方で負うか、片方の親のみで負うか」です。
共同親権であれば、離婚後も父母が揃って子育てに関わることができます。
しかし単独親権だと、親権者となる親のみが責任をもって子育てをするため、親権者の負担が大きいといえるでしょう。
また、離婚しても父母の双方が親権を有していれば、子どもは両親の愛情を実感しやすいかもしれません。
共同親権を導入するにあたって作成された要綱案では、離婚後の親権は父母の協議で選択できるとされています。
つまり要綱案では、共同親権が導入された後も、単独親権を選べるとされています。
子どもの利益や父母の希望を考慮して、話し合いによって決めることができます。
しかし、一方の親のDVや子どもへの虐待によって離婚に至ったケースもあるでしょう。
この場合、DV被害者である親は単独親権を、加害者である親は共同親権を希望して、協議が難航することも考えられます。
協議による親権者指定が難しいときは、家庭裁判所が親権者を指定します。
家庭裁判所がDVや虐待の事実を認定すれば、単独親権の維持が可能です。
また、離婚後に共同親権を選んだ場合の親の権利は、下表のとおりです。
受験・転校・手術・パスポートの取得など | 両親の合意が必要 |
---|---|
日常の行為(毎日の食事、習い事の選択など) | 一方の親が判断できる |
緊急手術・DVからの避難など「急迫の事情」がある場合 | 一方の親が判断できる |
共同親権を選ぶと、子どもの進学先の決定や手術を受けるときの他、パスポートの取得などの際にも両親の合意が必要です。
しかし、子どもの日々の食事や習い事などは、一方の親の判断で決めることができます。
また、子どもの急な手術やDVからの避難など「急迫の事情」がある場合も、子の利益を考えて一方の親のみで判断できます。
ここでは共同親権の導入が検討されている背景を解説します。
離婚後のトラブルのひとつに、養育費の未払いがあり、この問題を解決するために共同親権の導入が検討されているとされています。
ひとり親世帯の養育費受給状況は、下表のとおりです。
取り決めをしている割合 | 取り決めをしていない理由 (最も大きな理由) | 現在も養育費を受給している割合 | 1世帯平均月額 (額が決まっている世帯) | |
---|---|---|---|---|
母子世帯 | 42.9% |
相手と関わりたくない:31.4% 相手に支払う能力がないと思った:20.8% 相手に支払う意思がないと思った:17.8% |
24.3% | 43,707円 |
父子世帯 | 20.8% |
相手に支払う能力がないと思った:22.3% 相手と関わりたくない:20.5% 自分の収入などで経済的に問題がない: 17.5% |
3.2% | 32,550円 |
母子家庭の半数以上が、そして父子家庭のおよそ8割が、離婚時に養育費の取り決めをしていないという結果となっており、養育費を受給している母子家庭は24.3%、父子家庭は3.2%となっています。
単独親権だと、親権者ではない親は子どもを育てている実感がわきにくく、養育費の支払いが滞ってしまうことが考えられ、養育費がもらえないことによって子どもに不自由な思いをさせてしまうかもしれません。
その一方、共同親権であれば父母の双方に子育ての権利があり、離れて暮らす親も子どもを育てているという責任を自覚できることにより、養育費の未払いを防げる可能性があります。
このように養育費の未払い問題を解決し、金銭面で子どもに不利益を与えることがないよう、共同親権の導入が検討されているのです。
共同親権の導入が検討されている理由として、離婚後の面会交流がおこなわれない問題を解決する目的もあると考えられます。
離婚によるひとり親世帯の面会交流の取り決め・実施状況は下表のとおりです。
取り決めをしている割合 | 現在も面会交流をおこなっている割合 | 実施頻度 | |
---|---|---|---|
母子世帯 | 24.1% | 29.8% | 月1回以上2回未満:23.1% 4~6ヵ月に1回以上:15.9% 2~3ヵ月に1回以上:15.8% |
父子世帯 | 27.3% | 45.5% | 月1回以上2回未満:21.1% 4~6ヵ月に1回以上:20.0% 2~3ヵ月に1回以上:15.8% |
離婚後に面会交流を実施している母子家庭は29.8%、父子家庭は45.5%となっています。
また、面会交流を実施していても、頻度は月に1回程度です。
この結果から離れて暮らす親の多くは、わが子と満足のいく交流ができていない傾向にあることがわかります。
単独親権では、親権者の許可を得ないとわが子に会えない場合がほとんどです。
しかし、共同親権であれば双方が親権者となるため、一方の親が面会交流を拒むことはできなくなります。
面会交流は、離れて暮らす親の権利です。
そして離れて暮らす親との交流は、子どもの福祉にもつながります。
子と親が満足に交流し、子どもが健やかに成長するためにも、共同親権の導入が検討されているのです。
離婚後の共同親権を認めている国が多いとされている点も、共同親権の導入が検討されている理由といえます。
令和2年に発表された法務省の調査によると、共同親権を認めている国と認めていない国は、以下のとおりとなっています。
共同親権を認めている国 | アメリカ(ニューヨーク州・ワシントンDC)、カナダ(ケベック州・ブリティッシュコロンビア州)、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、インドネシア、韓国、タイ、中国、フィリピン、イタリア、イギリス(イングランドおよびウェールズ)、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、オーストラリア、サウジアラビア、南アフリカ |
---|---|
共同親権を認めていない国 | インド、トルコ |
調査対象の24か国のうち、22か国が共同親権を認めています。
国際的にみて、共同親権が認められていない国は少ないといえるでしょう。
国際離婚をする場合、法制度の違いで争いになることが考えられるため、共同親権の導入が検討されているのです。
海外に住んでいる日本人の親と外国籍の親が離婚する場合、日本人の親が子どもを連れて帰国すると、外国籍の親は、わが子に会えなくなってしまいます。
このような「子どもの連れ去り」問題に対処すべく、日本は2014年にハーグ条約を締結しました。
ハーグ条約により、16歳未満の子どもを居住地から連れ去った場合は、元の居住地へ子どもを返還することが義務付けられたのです。
しかし2020年の欧州議会本会議で、EU籍の親と日本人の親が離婚した際、日本人の親が連れ去った子どもの返還率が低いと指摘されました。
子どもの返還率の低さは、日本とEU諸国の法制度の違いも理由のひとつと考えられ、国際離婚をしても、両親が揃って子どもの養育に携われるよう、共同親権の導入が検討されていると考えられます。
共同親権は、2026年までに導入される見込みです。
2024年4月16日の衆議院本会議で、共同親権を認める法改正案が賛成多数で可決され、2024年5月17日の参議院本会議で、賛成多数で可決・成立しました。
これにより2026年までに共同親権が導入される見通しですが、DVや虐待から逃れられないことなどへの懸念があります。
では、共同親権が導入されたら、どのようなメリットがあるのでしょうか。
ここからは、共同親権のメリットを5つ、解説します。
共同親権であれば双方の親に子育てをする義務と責任があるため、単独親権のように、親権者だけに負担がかかることは少ないでしょう。
また双方の親に親権があるので、両方の親が進学先などを決める際のアドバイスや経済的な支援をできます。
子どもも、日常的に両親と関わっている実感がわきやすいでしょう。
離れて暮らしていても、両親を頼りにすることができるので、子どもの精神的な安心にもつながるかもしれません。
共同親権が認められることにより、離れて暮らす親も自発的に養育費を支払ってくれるメリットが期待できます。
共同親権制度の導入によって両親が子どもの養育に関われるようになることで、わが子との絆をより強く感じ、養育費の支払いに前向きになれる親が増える可能性があるからです。
また、共同親権の導入とともに、法定養育費制度の導入も検討されている点もメリットのひとつです。
法定養育費制度とは、養育費の取り決めをせずに離婚しても、別居している親に対して最低限の養育費を請求できる制度のことです。
共同親権の要綱案では、従来の法定養育費差し押さえ時より、スムーズに財産の差し押さえが可能にすることが記載されており、養育費の不払いが発生しても、回収しやすくなると期待できます。
単独親権の場合、親権者ではない親は親権者の許可を得てから子どもと面会交流することになります。
しかし、親権者の許可が得られず、わが子と適切に面会交流できていない親もいるのです。
共同親権が導入されれば父母の双方が親権者となるため、同居している親は面会交流を断れません。
離婚後同居している親に対して、別居している親に会いたいと言い出しづらい子どももいるでしょう。
共同親権であれば、離婚しても子どもの生活に父母が密接に関わります。
子どもは両親の存在を常に身近に感じられるため、離れて暮らす親に会いやすい環境を整えられるはずです。
単独親権が定められている現在の法律では、両親のいずれかを親権者としなければならないため、両者一歩も譲らなければ、争いが激化する可能性があります。
しかし共同親権であれば父母共に親権をもてるため、離婚時の争いを回避できたり、離婚問題を早く解決しやすくなったりすると期待できます。
ここからは、共同親権を導入するデメリットや懸念点を解説します。
共同親権のメリットのひとつに、定期的な面会交流の実施が挙げられますが、片方の親が遠方に住んでいる場合、面会交流のたびに長距離の移動が発生し、子どもの負担になるかもしれません。
共同親権が認められれば、離婚後も元配偶者との関わりを避けることはできません。
たとえ元配偶者がDVやモラハラの加害者だった場合でも、子どもの進学や医療、引っ越しなどに関して全て元配偶者の許可を得なければならないのです。
和光大学の熊上崇教授も、離婚後も元配偶者の支配から逃れられなくなる可能性があると懸念しています。
家庭裁判所がDVやモラハラの事実を認めれば、原則として単独親権となります。
しかし、精神的・経済的DVなどは証拠が残りにくく、裁判所による事実認定は困難です。
もし裁判所がDVの事実を認定できずに共同親権となった場合、せっかくDV加害者と離婚できても今後の関わりは続くことになるでしょう。
共同親権では、子どもの教育方針を両親揃って決める必要があります。
もし方針が食い違った場合、意思決定に時間がかかってしまうでしょう。
子どもも混乱し、ストレスをかかえてしまうかもしれません。
共同親権が導入されれば、離れて暮らす親と子どもは、定期的に面会交流を実施することになるでしょう。
そのため、親同士が近くに住んでいる方が都合が良いといえます。
同居している親の転勤や、実家の近くで暮らしたいなどの希望があっても、面会交流のことを考えると遠方への引っ越しは難しいかもしれません。
最後に、共同親権についてよくある質問を紹介します。
共同親権導入前に単独親権として離婚した場合でも、共同親権導入後に単独親権から共同親権へ変更できるとの法改正も併せてなされました。
しかし、共同親権導入前に離婚した場合、共同親権が導入されたとしても、何もしないままでは適用されません。
すでに単独親権で離婚が成立しているため、共同親権の導入後、自動的に親権者が変わるわけではないのです。
もし単独親権に不満がある場合は、家庭裁判所へ親権者変更の申し立てをしましょう。
家庭裁判所が認めれば、単独親権から共同親権に変更できます。
再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、親権は「養親」と「養親と再婚した親」がもつことになります。
離婚時に共同親権を選択すれば、子どもの親権者は実の両親です。
その後子どもと同居している親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をすれば、親権者は養親と、養親と再婚した実の親の2名になります。
しかし、15歳未満の子どもと再婚相手が養子縁組をするには、共同親権者双方の許可が必要です。
もし難しい場合は、父母のいずれか一方の許可で養子縁組ができるようにするため、家庭裁判所へ申し立てましょう。
共同親権を選んでも、子どもと同居できるのは一方の親のみです。
これは、共同親権を導入している諸外国でも同じです。
離婚後に、両親と子どもが同居することはありません。
ただし共同親権を選べば、子どもとの面会交流を円滑にできるでしょう。
共同親権とは、父母の両方が親権をもつ制度のことです。
2026年までに導入されるといわれています。
現在の日本では単独親権のみが認められているため、離婚後の親権者は父母のいずれかに定めなければなりません。
今後共同親権が導入されれば、離婚後も父母の双方で子どもを監護・養育できるようになる見通しです。
共同親権のメリットは、以下のとおりです。
共同親権のデメリットは、以下のとおりです。
離婚したいけれど子どもの親権が不安という方は、弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談すれば、子どもの親権を獲得するために取るべき行動や、必要な証拠などを教えてくれます。
相手との交渉、裁判手続きも代行してくれるため、希望に沿う形で、よりスムーズに離婚を成立させられるかもしれません。
親権は、子どもの将来を左右する可能性のある大きな問題でもあるため、悩みがある場合には、早めに弁護士へ相談しましょう。
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