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熟年離婚とは、婚姻生活が長い中高年の夫婦が離婚することです。一般的には、婚姻期間が20年以上ある50歳以上夫婦の離婚を熟年離婚といいます。
熟年離婚の際に気になるのがお金の問題です。とくに、長年専業主婦だった方の中には、年金がいくら貰えるのか不安な方もいるでしょう。
離婚時には、これまでに支払った厚生年金を夫婦で分ける、年金分割の手続きが可能です。しかし、どんな手続をすればいいのか、いくらの年金が貰えるのかは気になりますよね。
そこで本記事では、熟年離婚の際に気になる年金分割について、制度の特徴や手続の方法、いくらの年金が貰えるのかなどの基礎知識を解説します。
老後の安心のためにも、手続の概要をしっかり理解しておきましょう。
そもそも年金分割とはどんな制度なのでしょうか。まずは、年金分割の制度について詳しく解説します。
年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金を夫婦で分割する制度のことです。
厚生年金の支払額が多いほうから少ないほうへと分配されます。
年金は、夫婦の共有財産のひとつです。
離婚時の財産分与と同様に、婚姻期間に支払った年金は夫婦で分割することができます。
ただし、年金分割の対象となるのは厚生年金のみです。
そのため、夫婦のどちらか、もしくは双方が会社員や公務員などの第2号被保険者である必要があります。
自営業者などが加入している国民年金は、年金分割の対象にはならないので注意しましょう。
なお、年金の加入者分類は以下のとおりです。
・第1号被保険者…国民年金(老齢基礎年金)のみを受給
(例)自営業者、農業、漁業に従事している者、学生、フリーターなど
・第2号被保険者…国民年金(老齢基礎年金)+厚生年金(老齢厚生年金)を受給
(例)民間企業の会社員、公務員、私立学校の教職員など
・第3号被保険者…国民年金(老齢基礎年金)のみを受給
(例)専業主婦(主夫)など、第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者
たとえば、夫が自営業者で夫婦ともに国民年金に加入しているのであれば、年金分割制度は利用できません。
夫がサラリーマンで、妻が夫に扶養されている専業主婦といった場合は、婚姻期間に支払った夫の厚生年金部分を、離婚時に分割することができます。
年金分割は、配偶者の年金全額を半分に分ける制度ではありません。
婚姻期間中に支払った厚生年金のみが年金分割の対象です。
婚姻期間中に支払った年金という点においては、離婚時の財産分与と同じ考えだと理解しておきましょう。
年金分割には、合意分割と3号分割という方法があります。
それぞれの請求条件や分割割合については、以下の表のとおりです。
合意分割 |
3号分割 |
|
請求条件 |
・婚姻期間中の厚生年金記録がある ・夫婦のお互いの合意もしくは裁判手続きにより分割する方法を決めている ・請求期限(離婚日翌日から2年以内)を過ぎていないこと ※上記3つを全て満たす必要があります |
・婚姻中に厚生年金保険の記録があること ・平成20年4月1日以降に離婚、または内縁関係を解消していること ・平成20年4月1日以降に、一方が第3号被保険者である期間があること ・請求期限(離婚日翌日から2年以内)を過ぎていないこと ※上記4つを全て満たす必要があります |
対象期間 |
婚姻期間 (平成19年4月1日から始まった制度ですが、制度開始前の年金についても年金分割の対象となります) |
平成20年4月以降に配偶者の扶養に入っていた期間(第3被保険者期間)のみ |
分割割合 |
上限50% |
一律50% |
手続 |
原則、夫婦そろってする |
単独で可能 |
合意分割とは、夫婦の話し合いによって年金の分割割合を決める方法です。
上限の50%までであれば、分割割合は夫婦で自由に設定できます。
また、合意分割をするには、夫婦のいずれかもしくは双方が厚生年金に加入している必要があります。
合意分割は平成19年4月から始まった制度ですが、制度開始前に支払った厚生年金も年金分割の対象です。
裁判外もしくは裁判での話し合いで分割割合を決めたら、夫婦そろって手続きを進めましょう。
3号分割とは、年金分割を受ける側が、第3号被保険者の場合に利用できる方法です。
たとえば、専業主婦やパート勤務など、配偶者の扶養に入っていた方が対象です。
3号分割を適用する場合の分割割合は一律50%で、請求者のみで手続きできます。配偶者の同意は不要です。
既に長期間別居していたとしても、婚姻期間が継続していれば年金分割は可能です。
年金分割をされる側は、別居期間が長くほとんど顔を合わせていないのに、自分の厚生年金を分けることに納得がいかない方もいるかもしれません。
しかし、婚姻期間が続いており、「特別の事情」がない限りは、離婚時に半分の割合で年金分割が可能です。
なお、「特別の事情」があると認められるケースは極めて稀でしょう。
なぜなら、婚姻期間中の年金は、夫婦の協力によって支払われた、老後の所得保障の意味合いがあるからです。
仮に裁判になっても、長年の別居や不貞行為が「特別の事情」だと判断されることはほとんどありません。
年金分割をしたあとに元配偶者が死亡しても、分割された年金は引き続き受け取ることができます。
元配偶者が死亡した場合も、年金の受給額は変わりません。
また、元配偶者が受け取るはずだった年金は遺族年金として、死亡時の遺族が受け取ることになります。
年金を合意分割で分ける場合は、どのように手続を進めるのでしょうか。
ここからは、合意分割の手続の流れについて解説します。
まずは、「年金分割のための情報通知書」を入手しましょう。
「年金分割のための情報通知書」とは、年金分割に必要な情報が記載された書類のことです。
厚生年金の加入者氏名や生年月日、婚姻期間や年金分割の対象期間などが書かれています。
「年金分割のための情報通知書」を取得するには、年金事務所への申請が必要です。必要な書類は、以下のとおりです。
上記の書類を揃えて申請すれば、2週間ほどで取得できるでしょう。
「年金分割のための情報通知書」を取得したら、まずは夫婦で話し合いましょう。
合意分割の場合、上限50%の範囲内で分割割合を自由に決めることができます。
ただし、特段の事情がなければ50%の割合で分割するのが一般的です。
分割割合が決まったら、取り決めの内容を公正証書に残しておきましょう。あとあとのトラブルを防ぐことができます。
夫婦の話し合いでまとまらなければ、裁判手続に進みましょう。
裁判手続きは、まず調停を申し立て、調停で合意ができなかった場合に審判へと移行する流れが一般的です。
しかし、年金分割のことだけを協議したいのであれば、調停をせずにいきなり審判を申し立てるケースが多いようです。
また、離婚全般の取り決めをしたいのであれば、離婚調停を申し立てましょう。年金分割については、離婚調停の中で話し合うことができます。
年金分割についての取り決めができたら、年金事務所で合意分割の請求手続をしましょう。
請求手続きは、離婚後におこないます。また、手続には以下の書類が必要です。
標準報酬改定請求書の記載方法や必要書類の詳細については、日本年金機構のホームページに記載があるので、事前に確認しましょう。
請求手続きが完了したら、「標準報酬改定通知書」を受領しましょう。
標準報酬改定通知書は、手続き完了後2週間~3週間程度で夫婦双方へ郵送されます。
年金分割後の年金記録が記載されているので、確認しましょう。
3号分割であれば、配偶者の同意は不要のため、自分ひとりで手続できます。
ここからは、年金を3号分割で分ける場合の手続の流れを解説します。
まずは「年金分割のための情報通知書」を入手しましょう。
これは、合意分割の場合と同じです。
必要書類を揃えて、年金事務所へ申請をします。
「年金分割のための情報通知書」を入手したら、年金事務所で3号分割の請求手続きをおこないます。
必要な書類は、以下のとおりです。
なお、離婚の届け出はしていないが事実上離婚状態にあることを理由に3号分割を請求する場合は、住民票や夫婦がこの事情を認めている旨の申立書(夫婦の署名があるもの)が必要です。
詳しい手続方法や必要書類については、日本年金機構のホームページに記載されているので、事前に確認してください。
手続が完了したら、「標準報酬改定通知書」を受領しましょう。
こちらも、合意分割と同様です。
年金分割の方法には、合意分割と3号分割があることがわかりました。
どちらの方法を選ぶべきなのかは、夫婦の事情によっても異なります。
ここからは、年金分割する方法の決め方を解説します。
合意分割にするべきか、3号分割にするべきかは、婚姻歴によって得なほうを選ぶようにしましょう。
3号分割は、平成20年4月1日から始まった制度です。
平成20年4月1日以降に婚姻をし、婚姻中は配偶者の扶養に入り続けていたのであれば、3号分割を選ぶことになります。
また、平成20年4月1日以降に婚姻し共働きをしていたが、出産を機に妻が配偶者の扶養に入った場合や、共働き時代の収入が妻のほうが高かった場合なども、妻にとっては3号分割のほうが得になるといえるでしょう。
しかし、平成20年4月1日より前に婚姻したのにもかかわらず3号分割を選択してしまうと、婚姻日~平成20年4月1日までの期間に支払った年金を分割することができなくなります。
この場合、合意分割を選択したほうが得だといえるでしょう。
合意分割と3号分割は、どちらか一方を選ばなければいけないわけではありません。
状況に応じて、両方選択することも可能です。
3号分割は平成20年4月1日から始まった制度です。たとえば、平成20年4月1日以降の年金を3号分割し、平成20年4月1日以前の年金を合意分割するということもできます。
しかし、婚姻期間に3号分割の対象期間が含まれている場合、3号分割と合意分割を分けて手続きするのは手間がかかります。
その場合、最初から合意分割を選択しておくのがおすすめです。
合意分割を選択しておけば、合意分割の請求と同時に3号分割の請求もおこなったとされるため、手続きを簡略化できるでしょう。
年金分割で夫の年金を半分貰えるからといって、安心だとは限りません。
ここからは、熟年離婚における年金分割の注意点を解説します。
熟年離婚における年金分割の注意点1つ目は、年金分割には請求期限があるということです。
年金分割の請求期限は、離婚が成立した翌日から2年以内です。
協議離婚の場合は、離婚届日が離婚成立日となります。
調停手続きで離婚した場合は調停成立日、訴訟で離婚した場合は判決の確定日が離婚成立日です。
期限を過ぎてしまわないように、早めに手続きをしましょう。
熟年離婚における年金分割の注意点2つ目は、年金分割の対象となるのが婚姻期間中の厚生年金に限るということです。
年金分割は、婚姻期間に支払った厚生年金のみが対象です。
たとえば、夫が厚生年金に30年加入しており、その内の20年が婚姻期間と重なるのであれば、20年間に夫が支払った厚生年金のみを年金分割することができます。
また、会社員の年金は国民年金と厚生年金の2階建ですが、国民年金部分は年金分割の対象ではありません。
そして、自営業者などで国民年金のみにしか加入していないのであれば、年金分割はできません。
夫が支払い続けた全ての年金を半分にできるわけではないので、注意しましょう。
熟年離婚における年金分割の注意点3つ目は、妻の年金を夫と分割するケースもあることです。
年金分割は、支払った厚生年金の額が大きいほうが、少ないほうへと分割する手続きです。
そのため、妻が厚生年金に加入しており、夫より収入が高かった場合は、妻から夫へ年金分割することになります。
また、夫が自営業者で国民年金のみに加入しており、妻が会社員で厚生年金に加入している場合も、妻の厚生年金を夫へ分割することになるでしょう。
年金分割は、必ずしも妻が得をするわけではないのです。
熟年離婚した場合、結局いくらの年金をもらえるのか気になる方もいるでしょう。
ここからは、熟年離婚した場合にもらえる年金分割額を知るための方法を解説します。
年金分割額を知るには、対象期間標準報酬額がいくらなのか知る必要があります。
対象期間標準報酬額とは、分割の対象となる期間の厚生年金の標準報酬を、年金加入者の生年月日に応じた再評価率を用いて現在価値に換算した額の合計額です。
対象期間標準報酬額の計算方法は非常に複雑なので、年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取得するのがおすすめです。
年金分割のための情報通知書には、対象期間の標準報酬額が記載されています。
では、年金分割後の年金額の計算例を、夫婦の状況別に見てみましょう。
婚姻期間中、妻がずっと専業主婦だった場合は、以下のような計算方法になります。
<条件>
<計算方法>
①妻と夫の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
0円+7,000万円=7,000万円
②按分割合50%で、分割後の妻と夫の対象期間標準報酬額を計算します。
妻 7,000万円×50%=3,500万円
夫 7,000万円×50%=3,500万円
③妻と夫の老齢厚生年金額を計算します。
3,500万円×5.481÷1,000=19万1,835円(年額)
※5.481は給付乗率です。給付乗率とは、年金の払戻率を表す係数のことで、生年月日によっても率が変わります。
この計算によると、妻は年金分割で、国民年金にプラスして年間19万1,835円の年金を得られることになります。
妻がパートで夫の扶養に入っていた場合、妻は厚生年金に加入していないことがほとんどでしょう。
年金分割は厚生年金部分のみが対象です。パート勤務で厚生年金に加入していないのであれば、専業主婦と同様に妻の対象期間標準報酬額は0円となります。
その場合の計算方法は、ケース①と同様です。
夫婦ともに会社員で厚生年金に加入していた場合は、以下のような計算方法になります。
<条件>
・妻の対象期間標準報酬額 3,000万円
・夫の対象期間標準報酬額 7,000万円
・按分割合は50%
<計算方法>
①妻と夫の対象期間標準報酬額の合計額を計算します。
3,000万円+7,000万円=1億円
②按分割合50%で、分割後の妻と夫の対象期間標準報酬額を計算します。
妻 1億円×50%=5,000万円
夫 1億円×50%=5,000万円
③妻と夫の老齢厚生年金額を計算します。
5,000万円×5.481÷1000=27万4050円(年額)
この計算によると、妻は年金分割で、国民年金にプラスして年間27万4,050円の年金を得られることになります。
正確な年金額を試算するには「年金分割のための情報通知書」を取得するのがおすすめです。
「年金分割のための情報通知書」は、夫の合意がなくても取得できます。
また、年金分割の計算は複雑で、自身で計算しても本当に正しいのかよくわからないという方もいるでしょう。
年金事務所に問い合わせれば、年金分割の金額を教えてもらえます。より正確な金額を知りたいのであれば、事前に年金事務所へ確認しましょう。
ここでは、熟年離婚をする前に注意したい3つのことを紹介します。
1つ目は、年金分割をしてもあまり大きな額はもらえないということです。
年金分割をして増える年金は月1万〜2万円ほどです。これにプラスして自身の国民年金があるとしても、老後の生活を安定させるには心もとない金額だといえるでしょう。
年金分割は、条件を満たしているなら取るべき手続だといえます。
しかし、分割できたとしても大きな額がもらえるとは限らないので、離婚後の生活のための当てにすることは禁物です。
2つ目は、離婚せずに形式だけでも夫と添い遂げれば、夫の遺族厚生年金がもらえるということです。
離婚してしまえば、離婚後に夫が亡くなったときに遺族厚生年金を受け取ることはできません。
遺族厚生年金は遺族に支払われるものなので、離婚後他人になってしまう妻には、受け取る権利がないのです。
遺族厚生年金の受給資格者は、亡くなった人が受け取るはずだった老齢厚生年金のおよそ4分の3の金額を受け取ることができます。
年間数十万円ほどもらえる可能性があるので、老後の経済的な安心を得るためにも、離婚しないでおくというのもひとつの方法です。
3つ目は、年金分割額を確認してから離婚するか判断することです。
離婚後は自分だけで日常生活を送らなければなりません。
そのためには、やはりお金は必要です。熟年離婚を検討しているなら、年金分割額を確認してから判断しましょう。
年金分割額を確認して、想像以上に額が少ないのであれば、熟年離婚は思いとどまったほうがよいかもしれません。
老後のご自身の生活のためにも、感情的に離婚を決めるのではなく、冷静に考えることが大切です。
年金分割をしても、老後の生活が保障されるほど大きな金額を貰えるわけではありません。
年金分割をしたからといって絶対に安心だとは言い切れないでしょう。
しかし、離婚で配偶者に請求できるお金は年金だけではありません。
財産分与や慰謝料なども請求できます。
特に熟年離婚の場合は婚姻期間が長いため、夫婦で築いた共有財産が高額になっている可能性があります。
きちんと財産分与をして、老後の生活を安定させたいのであれば、弁護士へ相談しましょう。
弁護士に相談すれば、夫婦の状況にあわせた離婚条件を一緒に考えてもらえます。
自身では相手に言い辛いことも弁護士が代わりに伝えてくれるので、負担を軽減できるでしょう。
調停や裁判手続きも弁護士に任せることができますし、結果的にご自身にとってベストな条件で離婚できるかもしれません。
長年の夫婦生活に疲れて、新しい人生を歩みたいと考えている方もいるはずです。
離婚をするべきか否かで悩んでいるのであれば、早めに弁護士に相談しましょう。
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