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FAITプログラムとは?|白梅学園大学福丸教授、立教大学山田准教授に取材
両親の離婚は子どもの心理状態に大きな影響を与えてしまいます。気楽に周りに相談ができず、一人で悩んでしまうことも多いでしょう。また親自身も相当のストレスを抱えてしまうものです。FAITプログラムはそんな子どもや親の手助けとなるために生まれた米国発のプロジェクトです。
今回は、「FAITプログラムについて」や「プログラムにかける想い」などを白梅学園大学福丸教授、立教大学山田教授に取材を行いました。
この記事はそのインタビューの内容を会話形式にまとめたものとなっています。
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FAITプログラムとはどのようなものなのでしょうか。
親の離婚によって子どもが抱きやすい不安や、親子関係の中で生じやすい問題等への理解を深めて、コミュニケーションを介した具体的な対応などを習得するためにアメリカで開発された心理教育を、日本の状況に合わせて改訂したものがFAITプログラムです。
Families In Transition(家族の移行期)という意味のプログラム名にもあるように、離婚を家族が新たな形になる移行期と捉えて、その手助けとなるようなプログラムとなっています。
親自身にとっても、離婚のストレスは相当なものであり、子どもの気持ちを十分に考える余裕がなくなることもしばしばあります。
親自身もケアをされなければ、親としての機能を果たす余裕がなくなってしまいがちです。
そこで、このプログラムは親の親としての機能を高めると同時に、子どもが親の離婚によって抱きやすい不安や悩みついてもケアや対処をしていけるようなプログラムとなっています。
開発されたケンタッキー州では離婚時に受講するよう義務づけられていて(司法過程に組み込まれて)いますが、日本では離婚時の受講に限定はしていません。当初は離婚後2年以内までの方を対象としたプログラムを想定していましたが、実際には離婚前から離婚後数年というように参加者の様々なタイミングでプログラムを提供しています。
参加者は皆さん、離婚の経験という共通点がありますが、一方で、異なる年齢、発達段階の子どもがいる参加者からの体験談を聞くことで他の参加者が気づきを得ることもとても意味があるようです。例えば、既に大きな子どものいる参加者さんが、小さな子どもを育てる参加者さんに対し「うちもそういうことがあったよ」と伝えるなどの相互交流が見られることもありました。私たちも参加者の皆様のお話を聞くことで学びを得ることも多いです。
一方で個人的な体験を聞くだけでなく、根拠のある理論的な内容についてもプログラム内で紹介していきます。
このように、メンバー同士の相互作用からも、また理論的な視点を通しても理解を深めていくことが出来ることも特徴的ですね。
もちろん話したくない内容は無理に話すことは勧めていませんが、守られた状態で、会話できる環境を提供できているとも感じています。
具体的なプログラム内容を教えて頂けますでしょうか。
FAITプログラムは、グループ形式で各日2時間程度、2日間に渡って行います。親グループ、低年齢の子どもグループ、思春期青年期のグループの3つがあります。約10名を1グループとして、グループ毎に心理士2名のファシリテーターを配置してプログラムを進行します。親子は別々の空間でプログラムに参加し、親の離婚を経験した子ども同士、そして離婚を経験した親同士で参加するようになっています。
他の参加者と共に、ワークブックやDVDを通じての座学とディスカッションを織り交ぜて進行していきます。
プログラムはA・B・Cの3つのパートに分かれています。親グループの場合、Aパートでは、子どもの発達段階に応じた心理状況の理解を深めることが狙いになっています。Bパートでは、離婚後の親子関係を良好なものとするための具体的なコミュニケーション方法について学ぶことができます。Cパートでは、元配偶者とやり取りをする場合のコミュニケーション方法について紹介しています。
また、子どもグループおよび思春期青年期グループのプログラム内容は、親の離婚という経験から何を失って何を得たのか、どのような人やどんなことが支えになったのかを振り返ったり、未来の心配事について話したり役立つコミュニケーションスキルなども扱っています。
両親の離婚やそれにまつわる心配事等について、子どもたちが誰かに話をする機会は多くありません。離婚や家族に対する気持ちを表現したかったらしてもいいことに改めて気づいたり、話したいときには誰かに自分の話を聴いてもらったりという体験はとても大切です。また、親の離婚を経験しているのは自分だけではないと感じること、親の離婚は自分のせいではないと改めて保証されたり実感できたりすること、親の問題と自分の問題は分けて考えられること、なども子どもの成長の過程で重要なことと考えています。プログラムの中では、こうした視点を子どもたちと共有していきます。
また、子どもに向けたFAITプログラムの対象年齢は5~17歳とされていますが、昨年度、立教大学も含む複数の大学の学生に向けて試行実践の研究を行いました。
大学生になってから、FAITプログラムを受けることで、未成年の頃の両親の離婚を起因とする出来事に対する感情の整理ができ、他の参加者の体験を聞くことで、そのような出来事や悩みを抱えている人は自分一人ではないことに気づく機会になったようです。
このように親と子どものそれぞれに立場に合わせてプログラムは設計されています。
FAITプログラムの特徴を教えてください。
親には、離婚後の子どもの成長を見守り、子どもの理解や親子関係の理解に役立つと考えられることについて、座学やグループワークを通じて、理解を深められるように工夫されています。。
グループワークでは、同居親や別居親、それぞれの参加者同士がテーマに沿って対話することで、実体験に基づいた話を交えて進めていきますので、テキストやDVDを介した学びだけではなく、各参加者の体験談や意見などに耳を傾けることで、色々な気づきや理解が得られるのだと思います。
当プログラムは、離婚前、離婚中、離婚後それぞれの段階に応じた子どもに対する”親としての機能”を高めることが狙いとされています。
子どもの発達段階や家族関係の状況に応じて、適切な子どもとの接し方は変化していきます。
それぞれの時期に合った、子どもの不安に対する適切な対処法を知ったり、グループで一緒に考えることが出来ることも大きな特徴です。
親が子どもと接するにあたり、心がけるべきポイントはどのような点でしょうか?
まず、コミュニケーションという点では、できるだけ子どもの言葉に耳を傾ける姿勢が大切ではないかと思います。子どもにとっての親の離婚は、やはり親の経験とは異なる面が少なくありません。子どもの言葉に耳を傾けたり、子どもなりの気持ちや状況を少し想像してみたり、普段のコミュニケーションを子どもの目線ですこし見直してみることは、親子の関係にも意味があると思います。もちろん親自身も大変な中で、なかなか難しい場合もあるでしょうから、支えが必要なときは、親自身が誰かに頼ったり信頼できる人に話をしたり、とセルフケアも大切になるでしょうね。
米国のプログラムを日本の状況に合わせて改訂するにあたり、新たに考慮に入れたポイントを教えてください。
日本でのプログラム実施においては、多世代における関係性を盛り込みました。
欧米に比べて日本では、祖父母等の親戚が離婚後の子育てに協力する場面が多いため、特に祖父母の存在を含めた多世代の関係を視野に入れる必要があります。そこで、孫からのメッセージという形で、祖父母に向けたページを日本版のFAITプログラムに加えました。
参加者の皆様はどのような感想を持つ方が多いでしょうか。
子どもの視点に立ってとらえることを意識するようになったという感想をよくお聞きします。もちろん別居親に子どもを会わせることに対する抵抗心が強い同居親の方も少なくありません。でも、プログラムを通じて自分の元配偶者に対する複雑な思いや、面会に対する葛藤もありつつ、子どもの視点に立って面会交流の意味を深く考えることが出来たという感想を頂いたりしています。
他にも、今後の育児の方向性に関して、配偶者間で意見の相違があった参加者の方で、自身の育児方針とテキストの内容が一致しており、理論的な裏付けをもって、「自分の育児方針は間違ってなかった。」という自信を持つことが出来たという感想をお持ちになった方もいらっしゃいました。
子どもとの関係を深めるためのコミュニケーションに関して、子どもの言葉の背景の心理にも視点が及んだという感想を頂いたこともあります。
最後にFAITプログラムの研究にかける想いをお聞かせください。
ご家族に対して、親子関係は変化していくもの、離婚後にも新しい親子関係の構築が出来るもの、親子関係は離婚後も続いていくもの、そのように伝えていけたらと思っています。
もし、子どもと関わる際に衝突やトラブルなどがあった場合でも、その後の関係性で修復できる機会もあると思いますし、例えば今は会えない場合でもいつか会えた時のための適切な対処やコミュニケーションスキルをお伝えしたいと思っています。
同居親・別居親ともに「離婚後の親子関係を強化するためにはどうすればよいのか。」という視点で今後の子どもとの関わり方について一緒に考えていきたいという想いで、FAITプログラムの研究を行っております。
また、子どもには「両親が離婚したのはあなたのせいではない」ということを伝えたいです。
両親の離婚に起因する悩みは話しにくい内容かもしれませんが、話すことが出来そうな相手には話して良いということも伝えたていきたいです。
FAITプログラムは両親の離婚を経験した当事者が参加対象となるため、同じ境遇の子どもたちが参加します。
そのため、プログラムの場を通じて、これまで自分の中で抱えていた思いや悩みを言葉にする機会をもつという側面もあります。
是非離婚を経験する子どもに、当プログラムのような機会があればと思います。
アメリカのプログラムを日本に導入し、実践するという難しさもありますが、一方で、我々も含めて誰にでも離婚というライフイベントは起こりうることであり、多様な家族、家族関係が存在するのだという視点を大切に、実践や研究に取り組んでいきたいと思っています。
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