夫婦関係修復に重要なコミュニケーションの本質とは?|津田塾大学中西教授へ独自取材

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公開日:2020.10.15
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夫婦関係修復に重要なコミュニケーションの本質とは?|津田塾大学中西教授へ独自取材

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アシロ取材班

夫婦間の関係修復において、重要な点についてお教えいただけますでしょうか。

中西様

夫婦関係の修復において最も重要な点は、タイミングです。

夫婦関係に限らず人間関係は、一定以上悪化してしまうと、修復することが極めて困難になってしまいます。だから、病気と同じなんです。少しでも具合が悪いなと感じたら、放っておかず、すぐに適切な「処置」をすることが重要です。

アシロ取材班

夫婦関係が悪化している「兆候」とはどのようなものなのでしょうか。

中西様

一番わかりやすいのは、コミュニケーションの量と質が変化することです。。


最近、ウソのように夫婦ゲンカをしなくなった・・・やれやれ一安心ではなく、これが実は、とても危険なサインなんです。夫婦間の問題についてパートナーと真正面から向き合うことを避けたり、「この人に何を言ってもムダ」だと諦めてしまったりすると、結果的にそうなるからです。夫婦間の問題を解決する唯一の手段がコミュニケーションなので、その量が十分に維持できなくなってしまうともう手の施しようが無くなってしまうのです。

夫婦間で喧嘩をしている間はまだ夫婦関係改善の余地があります。


しかし、相互理解を深めるコミュニケーションをする手間暇を惜しんで、いずれか一方がコミュニケーション自体を放棄する段階になれば、夫婦関係を修復することはもはや非常に困難になるわけです。

さらに、コミュニケーションの質の変化では、当たり障りのない話、子どものことについての必要最低限の会話だけになってしまって、自分やパートナーのことはほとんど話さないようになってしまうケースが多いですね。このように、会話の中身が希薄になることも、夫婦関係悪化のサインです。

 

家族ひとりひとりがどんな生活をしているのか、何を思い、感じているのかがオープンな家族間のコミュニケーションを介して自然と把握できることが望ましいでしょう。

日々の出来事はもちろん、自分の考え、気持ちなどを自由に話せるようなよいコミュニケーションの環境作りが重要です。対人コミュニケーションにも造詣が深い心理学者のジャック・ギブは、人間関係を「気候」に例えています。相手を思いやる暖かなコミュニケーションと相互信頼が基本で、明るく、のびのびと自分らしくいられる人間関係は、「温暖な気候」に似ていて、冷淡な扱いや自己否定のメッセージに常にさらされている場合には、「寒冷な気候」に似た人間関係であると論じています。何でも気軽に話せる「よい雰囲気=温暖なコミュニケーション気候」の維持が、夫婦間のみならず、親子の関係においてもとても大事なことだと思います。

 

例えば、親がこの「コミュニケーションのよい環境作り」をおろそかにしておいて、日々の出来事を根ほり葉ほり聞くと、子どもが監視されているような気持になり、かえって親子関係が悪化することにも繋がりかねません。

繰り返しになりますが、日々の出来事や自分の考えや気持ちを相手から否定されることなく、自由に、気軽に話せる「温暖なコミュニケーション気候」に変えていくことが、家族間で安心感や相互の信頼関係を生み出すことに繋がります。

アシロ取材班

何でも話せる雰囲気作りをするにあたり、心がける点について教えてください。

中西様

相手の話を聞いて理解しようとせずに、頭ごなしに否定するコミュニケーションをしないことです。

否定的なコミュニケーションは、「自分の話を聞いてくれない。自分のことをきちんと理解してくれない」と感じさせてしまいます。こうなると相手は心を閉ざしてしまいます。

自分が相手の話をきちんと聞いているか、その内容を正確に理解しているか常に意識し、場合によっては、「あなたの話を自分はこのように理解したが、それで正しいか」と相手に問いかけてみるのもおすすめですね。

そこで2点目に大切なことをお伝えいたします。

 

それは、聞く側の姿勢です。

人間はどうしても自己中心的な考えに基づいて、その結果、独りよがりなコミュニケーションとなり、「自分は正しい。あなたが間違っている」と一方的に決めつけて、相手を責め、批判してしまいがちです。自分と意見や考えが違うからと言って排除するのではなく、「誰でも自分の意見を言う権利がある。自分は違う考えだが、相手の意見は尊重しよう」というアプローチを取ることによって、建設的な話し合いや議論が可能になるのです。夫婦間の問題でもその本質をお互いの言い分を十分聞いて、正確に理解した上で、問題解決に持って行くことが重要だと思います。

 

夫婦間の感覚の違い、同じ状況を同じ視点で見ていないことがきっかけとなって、夫婦関係が揺らいでしまうことは少なくありません。夫婦であれば、少なくとも2つの感覚、2つの視点があることを常に意識して、夫婦関係の中で「温暖なコミュニケーション気候」を維持しながら、相互理解を深め、夫婦間の感覚や視点のズレを修正するための有効な手段であるコミュニケーションによって、そのズレをいかに小さく出来るかがポイントだと思います。

そのために、まず、自分自身が相手を否定したくなる気持ちをぐっとこらえて、話を聞くことに注力することで、夫婦間のコミュニケーションの質の改善を目指すことですね。

アシロ取材班

もし夫婦関係の修復が困難になり、離婚することになった場合は、どのような点を注意すべきなのでしょうか。

中西様

夫婦関係の修復が不可能となった場合、わだかまりを双方残さないような「ソフト・ランディング」に持って行くことが大切なポイントとなります。

離婚でソフト・ランディングがしばしば困難になるのは、お金と人間関係の双方で折り合いがつかないことが多いからだと思います。子どもがいれば、なおさらです。こうした要因が複雑に絡み合うため、ソフト・ランディングさせて、お互いにすっきりした気持ちで新たな人生に踏み出すことが難しくなります。全ての面で、フィフティーフィフティーになればいいのですが、そうなることは非常に稀です。

 

金銭面での折り合いについては、僕の専門ではないのでコメントは差し控えたいと思いますが、後々のトラブルの原因となり得る「感情的なわだかまり」については、コミュニケーションの観点から少しお話ししたいと思います。

感情には、大きく分けて、2種類のものがあります。喜びや幸せ、うれしさのようなプラスの感情と怒り、嫉妬、不安のようなマイナスの感情です。人間誰しもこうした2種類の感情をもつことが自然ですし、人が人である所以でもあります。重要なのは、プラスの感情をいかに上手に表現し、マイナスの感情をいかに上手にコントロールするかということです。マイナスの感情を一切コントロールせずに相手にぶつけることは人間関係を破壊する行為以外のなにものでもありません。しかし、人間関係がこじれると、「攻撃は最大の防御なり、分かっちゃいるけど止められない」というのが、正直なところでしょう。

 

そこで、コミュニケーションのスキルとして、大切だと言われていることは、感情表現の仕方です。次の2つのパターンを比較してみてください。
A. あなたが、私を怒らせた(惨めな気持ちにさせた)。(Youメッセージ)
B. 私は、怒っている(惨めな気持ちである)。(Iメッセージ)

AとBの違いは主語が「あなた」か「私」かです。Aは自分の感情の「原因」はあなたであるとはっきりと言ってしまっていますが、Bでは自分の今の気持ちをそのまま相手に伝えているだけです。Aは、言われた方は自分が責められていると感じるので、「そんなことを言われるのは納得できない」と反発し、当然、反論するでしょう。結果、大げんかになり、大きな感情的なわだかまりを作ってしまいます。Bは、聞き手は、一方的に責められているとは感じないので、相手の感情の背景になっている出来事や言動について、「もしかしたらこのことかな?」と自分でハッと気づいたり、反省したりするきっかけにもなったりします。もし自分に非があった場合、どちらのパターンだと自分から素直に謝りやすいか考えてみてください。

 

また、離婚を突然切り出されても状況が呑み込めず、「自分のどこがいけなかったの?」と相手を問い詰めてしまいがちですが、このようなやりとりも感情的なわだかまりにつながるので、控えるのが無難でしょう。逆に、「私のどこが好き?」と聞かれて返事に困るのと同じことです。言葉で説明出来ない「感情的な部分」を無理矢理説明させられることほど苦痛なことはありません。

こういう類いの質問に答えることは難しく、余計に嫌悪感を抱かれることにも繋がりかねません。

アシロ取材班

夫の妻に対するコミュニケーションに関するアドバイスをお願いします。

中西様

女性は自分の感情をパートナーに分かってほしいと思う傾向にあります。

中高年の男性の中には、男は外で仕事、女は家事、子育てという古い価値観にこだわって、「自分は外で仕事をしてお金を稼いでいる。そのおかげで家族が何不自由のない生活を送ることが出来ている。それなのに何が不満なんだ!」と夫婦喧嘩の際に、妻に対して声を荒げる方もいます。

妻が思うのは、「そこじゃないのに・・・」ということですね。

 

女性は、自分の気持ちをシェアしたいからという理由が多いのですが、男性は「用事」があるときにしかコミュニケーションしない傾向があるように感じます。例えば、女性が、「別に用はないんだけど、いま大丈夫?」と言って電話してくるのが、男性にはピンとこないのです。妻の気持ちを理解することは、夫にとって未知の領域であることも少なくありませんが、男性は意識して、女性とのコミュニケーションでは、感情面をケアしてほしいという要求を満たしてあげることが重要です。

 

理解する努力を放棄すると、妻が「いくら言っても、わかってもらえないんだ。」という不満を募らせてしまうことになります。

このような不満が限界に達する前に、妻の様子や仕草から細かい不満のサインに気づいてあげて、先んじて妻に声をかけてあげることが大切です。「話してもムダ」と思ってしまって諦めてしまうと妻の口数が減ってきます。これは黄色信号です。

アシロ取材班

逆に妻の夫に対するコミュニケーションにおいて注意すべき点はありますでしょうか。

中西様

多くの男性は自分の状況をパートナーに理解してほしいと思う傾向があります。

 

具体的には、「仕事で忙しく、他のことを考える余裕がないことも分かってほしい」などの状況理解を妻に求めることが多いでしょう。

 

夫にとっては、妻に対して自分の仕事の状況等をいちいち事細かく説明することが面倒に感じることが多いと思います。女性と同様、男性も「言わなくでも理解してほしい。」という気持ちがあるのですが、夫と妻で分かってほしい内容が異なるのです。

うまくいっている夫婦にはこのような”言わなくもわかること”を自然に双方が把握している(察しあっている)傾向があると思います。お互いの感情や状況を「察しあう」ことによって実現可能な「省エネ運転」が夫婦間のコミュニケーションの「負荷やストレス」を軽減することにつながるのです。

 

この絶妙なさじ加減を夫婦双方が理解することこそが、試行錯誤を通じて、学んでいく大切なコミュニケーション・スキルなのです。

アシロ取材班

よく巷にはコミュニケーションに関する本が多く出版されていますが、このような本は役に立つものなのでしょうか。

中西様

確かにテクニックやノウハウを取りまとめたコミュニケーションに関する本は、書店に多く並んでいるのを目にします。

しかし、今回ご説明したようなコミュニケーションの本質に関する理解を深めることなしに、具体的なテクニックやノウハウだけを学んだとしても、実際の場面では、条件が異なるためそのまま使えない可能性があります。全ての状況に有効な「コミュニケーションの公式」など存在しないのです。

 

あくまで、コミュニケーションの本質を理解した上で、必要なスキルを学び、状況に合わせて適切に実践するように努めること、これがもっとも重要なことなのです。
 

この記事の取材協力
津田塾大学 学芸学部 英語英文学科
教授 中西 雅之
津田塾大学教授。専門は対人コミュニケーション。著書に『対話力』(PHP研究所)、『なぜあの人とは話が通じないのか?』(光文社新書)、『人間関係を学ぶための11章』(くろしお出版)などがある。

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