難航した離婚問題の解決、希望する面会交流条件の実現
結論としては、要旨、次の内容で離婚調停が成立しました。概ね当方の方針どおりの結果を実現することができました。
① ご依頼者様と相手方は、調停離婚をする。
② 子ども3名の親権者は相手方とする。
③ ご依頼者様は、相手方に対し、子ども3名が20歳に達するまで、1名につき月々1万円(合計額3万円)を養育費として支払う。
④ 面会交流は、月に1回とし、日時、場所、方法は双方が協議して決める。
⑤ 前項にかかわらず、長女が更なる面会交流を希望した場合には、相手方はこれを妨げない。
⑥ ご依頼者様は、相手方に対し、財産分与として28万5000円を支払う。
⑦ ご依頼者様は、相手方に対し、離婚慰謝料として総額150万円を支払うことを約束し、頭金として30万円、残額は月々2万円ずつの分割弁済を行う。
弁護士の対応
【争点の整理】
1 争点の整理
本件の争点は以下の通りです。
⑴離婚の成立
相手方も離婚条件によっては離婚に応じる意思を示していたため、離婚の成否自体は争点から除外されます。
⑵ 子どもの親権
①相手方は、3人の子どもの親権の取得を希望していました。
②それまで子どもの監護養育をしていたのはご依頼者様でしたが、ご依頼者様は、月収が13万円前後であり、相手方からも養育費の支払を期待できない状態でした。このため、3人の子どもを自身で育てることは難しい状態でした。
③結果、親権は相手方が取得する方針となったため、争点から除外されました。
⑶ 養育費
①子ども3名の養育費について、相手方は月9万円の支払を主張していました。
②ご依頼者様の手取月収は13万円前後のため、当方はご依頼者様が現実的に支払可能な養育費は、月々2~3万円が限度と考えました。
③よって、養育費の額は争点となりました。
⑷ 財産分与
①ご依頼者様の財産分与対象財産として57万円の現預金がありました。その原資は、児童手当を貯蓄したものでした。
②受領済みの児童手当は、原則財産分与の対象ですが、相手方はこれらの現預金57万円は全て自身が取得すべきであり、財産分与の対象外との主張をしていました。
③財産分与は双方の意見に相違があり、争点となりました。
(5) 離婚慰謝料
①相手方は400万円の離婚慰謝料の支払を主張しました。その理由は、ご依頼者様が現在、他の男性と交際しており、これが不貞行為にあたること、二男が実子でないことを7年後に知り、精神的苦痛を受けたというものでした。
②当方は、離婚慰謝料の支払義務自体は認めました。しかし、ご依頼者様の経済状況から、400万円の慰謝料の支払は不可能だと主張しました。
③よって、離婚慰謝料の額や支払条件も争点となりました。
⑹ 面会交流
①ご依頼者様は、子どもとの自由な面会交流を求めていました。特に、長女は高校生ですので、長女が望む形で面会交流をしてあげるべきと考えていました。
②相手方は、月に1回の面会交流以外は認めないとの主張をしていました。また相手方は、長女からのLINEや電話も禁止すべきと主張していました。
③当方としては、長女の面会交流は自由に行うべきと考えていました。長女は、母であるご依頼者様との間で、電話やLINEなどで自由な交流を求めていたからです。
④以上のとおり、面会交流の問題は本件の最も大きな争点となりました。
2 実質的な争点
本件の実質的な争点は、①養育費の額、②財産分与、③離婚慰謝料の額及び支払方法、④面会交流の4点となりました。
【解決の内容】
1 前提となる方針について
本件を解決するに際して、まず「方針の策定」を明確に行いました。「方針の策定」を行うことで、①重要事項を見極めることができ、重要事項に関して安易な妥協を防止できること、②メリハリの効いた交渉や主張立証が可能となること、などの利点があります。実質的な争点の絞り込みを行ったことも「方針の策定」の一つです。
2 本件の具体的な方針―裁判所に対する対応方針
ご依頼者様と協議を行い、本件の具体的な方針を次のように定めました。
⑴ 裁判所への対応方針として、物怖じせずに、しっかりと主張することを方針に決定しました。本件では、二男の父親が夫ではないことや、ご依頼者様が別居後に他の男性と交際中であることなどから、中立な立場であるべき調停委員がこちらに対して予断や偏見を抱いていると感じる場面が多々あったためです。
⑵ 実際、離婚問題は、夫婦双方に落ち度がある事案が多く、当方の落ち度は素直に認めることも重要です。弊所としても過ちに対しては相応の責任を取るべきと考えています。しかし、過ちに対して相応以上の制裁を科することは大いに問題があると考えています。
⑶ なぜなら、法律上では「比例原則」という基本原理があるからです。これは、刑事上では罪と刑の均衡、民事上では行為責任とそれに対する損害賠義務の内容が均衡していなければならないとする基本原理です。つまり、人が過ちを犯したとしても、それに対する制裁は過ちに対して相応なものでなければならないという基本原理になります。本件でも、基本原理である比例原則の観点から、ご依頼者様が相応以上の不利益を受けないように、物怖じしない交渉スタンスを貫く方針としました。
3 争点ごとの解決内容
(1)養育費の額
争点のうち養育費の額は、養育費算定表に基づいて主張しました。養育費算定表によると、養育費は月々3万円程度になり、最終的には相手方もこの内容で合意しました。
⑵ 財産分与
①財産分与については、児童手当を原資とする現預金57万円は財産分与の対象になると主張しました。但し、当方の取り分である28万5000円については、離婚慰謝料の頭金へ充てることにしました。
②この事項については、裁判所の調停委員から「児童手当は子どものためのお金であるから、全額を親権者である相手方へ渡すべきだ。」と伝えられました。
③しかし、既に支給済みの児童手当は、財産分与の対象となるのが確立した実務上の運用となっています。この点を調停委員に説明した結果、最終的には、裁判所の理解を得られ、当方が主張した内容で財産分与を行うことになりました。このように調停委員であっても誤った知識に基づいて説得をしてくることがあるため注意が必要です。
⑶ 離婚慰謝料
①相手方は400万円の支払を求めていました。その理由としては、二男が自分の実子ではないという事実により極めて強度な精神的苦痛を被ったというものでした。
②当方は、総額150万円、うち頭金として30万円の支払、残額は月々2万円の支払が限度であると主張しました。この主張の論拠は次の2点でした。1点目は、ご依頼者様の資力ではこの提案が限度であったことです。2点目は、150万円を超えると支払困難になる可能性が高く、仮に破産及び免責を受ければ、離婚慰謝料の支払義務が無くなるということを相手方へ伝えるとともに、当方は合意した金額は踏み倒さずに誠意をもって支払っていきたいからこそ、上記の支払条件の主張をしているという旨を強く訴えかけました。
③その結果、離婚慰謝料についても、最終的には、基本的には当方の主張する支払条件でまとまりました。
⑷ 面会交流
①面会交流は最も紛糾した争点でした。
②相手方は、ご依頼者様と長女との自由な面会交流を度々にわたって拒否していました。
③当方は「子の福祉」の実現を目指しました。具体的には、可能な限り、長女が自由にご依頼者様と電話やLINEで連絡が取れるように話を進めました。
④また、長女が母であるご依頼者様と学校の制服を選ぶための買い物に一緒に行きたがっていたことや、LINEで相談をしてくることも多いこと、長女が料理の作り方などを聞いてくることも多いことなどの具体的な事情や、自由な面会交流の必要性を訴えかけました。
⑤相手方は、終始にわたって長女とご依頼者様との自由な面会交流には否定的でしたが、最終的には、「長女が面会交流を求めた場合には、相手方はこれを妨げない。」という条項を挿入することで折り合いがつきました。